「あけおめ」

 暖かな朝日を恵那の部屋のベランダから眺めていた。年があけたのだ。初日の出を拝むために早起きしたわけではない。ただ、早く目が覚めてしまったのだ。


 夜明けを知らせるように光り輝くその存在はため息が溢れるくらい綺麗だった。


「ああああ、冷たい」

 恵那が寝間着姿で寝ぼけ眼をこすりながら、隣に来た。


「綺麗だねー」


「ああ」


「朝ごはん食べたら初詣行こうね」


「もちろんだ」


「それじゃあ作ってくるねー」

 恵那が欠伸をした後、部屋の中に戻った。



 朝食を終えて、俺と恵那は神社まで向かっていた。ベランダでもかなり寒かったが、いざ街を歩くとダウンジャケット越しでも少し身震いするくらいには寒かった。


「街は余計に冷えるね」


「思った以上にな」

 神社に近付くに連れて、徐々に人が多くなっていく。この神社で初詣をしてはや三年。相変わらず人が多い。


「おーい」

 待ち合わせの場所に向かうと庭島がいた。


「明けましておめでとうございます!」


「おう。ことよろ」


「さあ、行こう」

 俺達は人がひしめき合う本殿の方に向かった。


 毎年と同じように賽銭を入れて、柏手を叩いた。目を閉じながら、願いを唱えている途中、二人と過ごした日々が脳裏を駆け巡る。そうだ。学生として彼らとこういう事が出来るのは最後なんだ。


 胸の奥が少し苦しくなった。きっと俺は寂しいんだ。だからこそ今はこの時間に幸せを感じていたい。


「さあ行こうか!」


「おう」


「そうだね」

 参拝を終えて、俺達は近くに出店している屋台を巡った。

相変わらず恵那は大食いで万単位のお金が屋台で消えた。


「屋台で二万飛ばしているやつ初めて見たぞ」


「俺も」


「んー おいし〜い!」

 両頬いっぱいに頬張る彼女に言語化できない愛おしさを覚えた。


「そんなに食ったら太るぞ?」


「なっ! 庭島君! 君にはデリカシーというものがないのかね!?」

 恵那が眉間に皺を寄せて、庭島に怒りを向けていた。


「体重は測ってんのか?」


「最近は測ってないのか? まあ! でも! 大丈夫でしょ! まだ華の女子高生な訳ですし!」

 恵那が両手に腰を置いて、高らかに笑っている。庭島が苦笑いを浮かべながら、恵那を見ていた。きっと今の僕も同じ顔をしているだろう。


 神社を出た後、俺達は解散した。学生生活最後の初詣。楽しかった。卒業した後、どれくらいの頻度で三人が集まれるかは定かではない。それでもまたこうして集まりたいものだ。


 すると突然、携帯が鳴った。画面を確認すると恵那からの着信だった。


「ソラシノ君。どうしよう。体重が」

 どうやら庭島の予想は的中していたようだ。




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