「卒業」
暖かな風と桜舞う空の下。卒業の日を迎えた。ついにこの日が来たのだ。どこかで聞いた事がある。学生生活はあっという間に終わるものだと。
確かにその通りだ。ましてや俺の場合はこの学校しか行ってないので余計に早く感じた。
先生と他生徒から拍手喝采を浴びながら、卒業証書を受け取っていく。俺も卒業証書を受け取り、席に戻った。
「みんな! ありがとう!」
恵那が涙を流しながら、友人達と熱い抱擁を交わしている。その光景を庭島と俺は近くの階段に座って、見ていた。
「俺達にはまだ不要だな」
「むしろこれからだよ。対策本部の訓練はかなり厳しいと思うけどできそう?」
「おうよ! 根性と筋肉には自信がある」
庭島が自慢げに力こぶを見せてきた。まあ、彼ならなんとかなるだろう。
「でも、学生生活は本当に終わったんだな」
「ああ」
学生生活。色々な事があったけどとても楽しかった。人間社会。友人。恋人。それらを知る事が出来た。彼らとの日々を忘れることはないだろう。
卒業式の後、クラスメイトのみんなでファミレスに行って卒業祝いの打ち上げをした。思い出話や時折、ふっかけられるおふざけに頰が緩んだ。
ああ、もっと一緒にいたい。もっとみんなと色々な事がしたかった。みんなと時間が楽しければ、楽しいほどこんな思いが胸の奥から溢れてきた。ありがとう。みんな。解散の時間まで俺達は楽しい時間を過ごした。
解散した後、俺は庭島と恵那と帰っていた。辺りは暗くなっており、静けさが漂っていた。
「もうこの三人で歩くのも最後か」
「だな」
「まあ、俺達は職場同じだけど」
「うまくいけばね」
「うるせえ」
庭島のバツの悪そうな顔に思わず、笑みを浮かべた。
「私。この三人に会えてよかったよ。本当に。本当に」
彼女の小さな肩が小刻みに揺れている。俺は恵那の頭を撫でた。俺も庭島も同じだ。この三人で過ごせた三年間は俺の一生に強く刻まれるだろう。
「それじゃあ。今度は対策本部で」
「ああ」
俺は庭島と熱い握手を交わして、別れた。その後、恵那を送るために彼女の家に向かった。泣きつかれているのか、彼女は先ほどより静かだ。
静まり返った帰り道を二人で歩いていく。遠くで聞こえる車の走行音や不意に吹く風の音が聞こえる。数分前の賑やかさとはかけ離れた静寂。
彼女の顔に目を向けると彼女の目元は赤くなっていた。喜びや悲しみ。今日という日で様々な感情を宿した流れた。俺は彼女の手をそっと握ると、彼女も静かに握り返した。
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