「バーベキュー」
蒸し暑さ漂う夏の夜。戦闘員と忌獣の叫び声が響き渡る森の中を俺は駆け抜けて来た。
「オオオ!」
「邪魔」
一体、また一体、討伐しながら他の戦闘員のサポートもする。最初は中々辛かったが、今はもう慣れた。
「うおおおお! 殺せええ!」
「グオオオオオオ!」
鳴り響く銃声。溢れ出る血。北原や庭島と過ごしていると忘れそうになる。
学生とはいえ、俺は対策本部の戦闘員。出陣を命じられれば応じる。それは夏休みであろうとも関係ない。
「消え失せろ」
「グギャアア!」
手に持った刀剣で切り刻んでいく。頰についた奴らの血に不快感を覚えながら前に進んだ。
数分後、奴らの死体の山が積み上がった。達成感を覚えながらも、そばにある助けきれなかった仲間の姿が目に映る。
己の力量不足に思わず、歯ぎしりした。慰めと言わんばかりに俺の右ほほを朝日が照らした。
研究室に戻ってしばらく眠った。次起きた時には夕方になっており、起きて早々、夕食が支給された。
生まれて来てからずっと食べていたはずなのに何故か、この頃美味しく感じない。
ポケットに入れていた携帯が鳴った。確認するとそこには北原からのメールが届いていた。
『明日。キャンプ楽しみだね! 遅れちゃダメだよ!』
そうだ。彼女だ。北原や庭島との食事はもっと楽しかったし、美味しくも感じた。
『了解した』
俺は返事を送った。明日が楽しみ。今までこんなことは一度もなかった。彼女と連絡を取った後、虚しい夕飯が少し美味しく思えた。
空から突き刺さる日光の暑さに体がこんがりと焼かれていく感覚を抱いた。
「やあやあハロー!」
「すまん。待たせた」
友人二人がやってきた。俺と同じく、暑そうな表情を浮かべている。
「それじゃあ行こうか」
俺は三人とともに電車でキャンプ場まで移動した。数ヶ月まで新鮮だった電車移動も今ではありふれた日常の一部となっている。
しばらくすると駅について、生い茂った緑が俺達を出迎えた。
「緑いいいいいいいいいいい!」
「騒ぎすぎるな。喉壊すぞ」
絶好調の北原とそれを窘める庭島とともに目的地に向かって行く。
歩いていく途中で俺は違和感を抱いた。この山に覚えがあったからだ。確か以前、任務で来たことがあった。
「広い場所だな。でもここって立入禁止区域だった気がするけど」
「元々、忌獣がいたけど退治されて今はいないんだって」
それは俺も覚えている。この場所にいた忌獣とその巣は俺が駆逐した。
そうこうしているうちに俺達はキャンプ場に辿り着いた。辺りには誰もおらず、鬱蒼とした森と川だけがある。
つまりここは今、俺達の貸し切り状態にあるという事だ。
早速、三人でテントを張って、寝床を確保した。そして、名物、バーベキューの準備。
「うわあ! いい音!」
熱された網に生肉を置いた瞬間、凄まじい音とともに焼かれ始めた。煙を上げる赤い肉。
数日前に殺した忌獣を連想したとはこの場を楽しむ彼らに口が裂けても言えない。
「ソラシノ。肉もういいんじゃないのか?」
「ああ、そうだな」
さあ、気を取り直して、宴を始めよう。
「よし、食うか!」
こんがりと焼けた肉を三人で頬張った。
「いい焼き加減だな!」
「すごく美味しいよ!」
「ありがとう。現場で身につけた技術が役になったみたいで何よりだ」
大きな任務の際は野営で肉を焼く事はよくあった事だ。それで大体、要領は掴んでいる。
一枚、また一枚と生肉が網の上で焼かれていく。その度に溢れる二人の笑顔。自然と口角が上げった。
夕焼けが空や木々を染める中、俺達はバーベキューの片付けと夜に備えていた。
「バーベキュー。あっという間に終わったね」
「ああ、まあ大体の理由はお前が食っちまったからだけどな」
「何を!」
「一人で三パック丸々食う奴がいるか!」
「だってええ!」
北原の食欲には驚かされた。庭島の言う通り、三パックの肉を全て食べつくしてしまったのだ。
「まあまあ、軽食くらいならまだあるから」
頬を膨らます北原と庭島を宥めた。森は夜の闇に染まり始めた。
「さあさあ、夜もやって来た事ですし、始めましょうか」
北原がそう言って、袋から花火を取り出した。
各々、花火の導火線にチャッカマンで火を灯した。煙の匂いとともに花火が音を立てて、輝き始めた。
「綺麗だね」
「おう」
「そうだね」
力強く輝いている線香花火。いつまでも見ていたくなるほど愛おしい。この線香花火を見るたびに俺はきっと今日の事を思い出すだろう。
夜中、用を足したくなり近くの公衆トイレに向かった。一人、静かな木製の小屋のいると庭島が来た。
「ジュース飲みすぎたな」
「それな」
庭島が図星と言わんばかりに笑みを作った。
「すまないな。この前花火行けなくて」
「いや。いいよ」
庭島と行けなかったのは残念だが二人でも十分に楽しめた。
「なあ、お前はどう思ってんの? 北原の事」
「どうって?」
「だから、そういう目で見てるのかって話」
「そういう目?」
取り留めのない話に思わず、首をかしげた。
「マジか。お前」
「何が」
「いや、やっぱ良い。お前にはまだ早かったかもな」
庭島が何かを察したような顔をした後、トイレを去った。
「何なんだ。さっきのは」
庭島からの不確定な言葉を俺は理解できないまま、公衆トイレを出た。東の空が薄っすらと青くなっていた。
「いやー。楽しかったねキャンプ!」
駅に向かう道中、キャンプの余韻に浸る北原。その後ろを見ながら、庭島に言われた言葉を頭の中で巡らせる。
「分からんなあ」
何度も思考しても答えに行き着かない俺を嘲笑うように太陽がギラギラと光っていた。
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