「最終日」

「あっつ!」

 最終日、俺達はまたもや海に来ていた。


「ソラシノ君。あくびばっかりだね」


「上手く寝付けなくてな」

 壮絶な仕事の後、温泉に入って二時間だけ寝た。もはや睡眠ではなく仮眠に近いものだ。しかし、怪しまれたら困る。体に鞭を打って、この最終日だけは乗り切ろう。俺は海に向かって、走った。


 飛び込んだ瞬間、視界がすぐに青々しい海へと変わった。澄み渡る海は眠気で淀んだ俺の視界も澄み渡らせてくれたのだ。


「やっぱ海って最高! ずっと入っていても飽きないよ!」

 彼女の五感で海を感じていた。おそらくこの場で海を満喫しているのは間違いなく、彼女だろう。


「そりゃあ、何より」

 北原の無尽蔵の体力に驚きながらも、俺は青空を見た。


「まあ、このコンディションならいつまでも遊べそうに感じるよな」

 俺は昨日の疲れを吹き飛ばす勢いで、北原と庭島と遊んだ。


 空港に向かうバスの中、北谷さんからメールが来た。洞窟の中でさらに分かった

情報が載っていた。どうやら契の体内には忌獣が入れられていたらしい、それで仮にあいつが死んでも忌獣になり、暴れるようになっていた事。アジトの建設がされそうになっていた事。あと少し遅ければもっと厄介な事になっていたかもしれない。

 そう考えると、安堵感もありため息がこぼれた。しかし、思った以上に組織が拡大しているのを考えると、今後ともさらなる警戒と対策が必要になってくるだろう。


「んー もっと遊ぼうよ」

 右隣の座席に座っている北原が寝ぼけて、もたれかかってきた。あの躍動っぷりなら眠るのも無理はない。

「おーおー 熱いね。お二人さん」

 俺の左隣に座っている庭島が茶化しにきた。

「かなりはしゃいでいたからね」

「はしゃぎすぎだろ。どう考えても」

「それが彼女の良いところだ」

「そうですか」

「そうですよ」

 俺たちはおかしく感じて、小さく笑った。

「どうだったよ。今回の修学旅行。お前にとって人生初なんだろ?」

「そうだね。楽しかったよ。こんな経験が出来るなんて」

 人生初の修学旅行はバタバタしたけど、楽しかったのは紛れも無い事実だ。

「そりゃあ何よりだ」

「いつかまた、こうやって旅行に行きたいよ」

「なら三人で別のところ、旅行しに行こうぜ」

「うん。行こう」

 今回の作戦。無事、成功して本当に良かった。彼らの命と思い出を守る事が出来たのだ。これ以上、良いことはない。彼らとの日々を過ごしていく事でこれまで頭にあった使命や義務というものがより明確で鮮明になった気がする。目に見えなかった人々を守っていた。でも今は目に見える大切な人達の日常も守っている。

「頑張るか」

 俺の胸にある意志が更に強固なものになった気がした。短くも壮絶だった修学旅行は静かに終わりを告げた。




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