「三度目の冬」
「ソラシノ君誕生日おめでとう!」
「おめっとさん」
十二月二十五日。世間ではクリスマスであり俺にとっては誕生日だ。今、俺達は恵那の家に上がっていた。山盛りのポテトと唐揚げ。色取り取りの野菜が盛られたシーザーサラダ。そして、俺を祝福するために用意された巨大なケーキ。あまりの大きさに思わず、笑いが出る。
「いやー クリスマス兼誕生日。おめでたいね」
「そうだな」
今まで外の文化を知らなかった俺からすれば、驚きでしかなかった。二年前は三人で一年前は恵那と二人で祝った。二人でも三人でもそれぞれの良さがあるが、やっぱりこの三人は良いものだ。
「ねえ! 二人とも見て!」
恵那が窓の方を指差した。外には雪が降っていた。白い雪が一つ、また一つと地上に落ちて行く。
「雪だ」
「外行こう!」
恵那が唐突に言いだした。俺達は彼女に引っ張られる形で外に出た。マンションを出ると雪はある程度積もっていた。おそらく恵那が気づく前から降っていたのだろう。
「それ!」
「冷たい」
「何すんだ!」
恵那が突然、俺と庭島に雪を投げつけて来たのだ。隣にいた庭島が近くにあった雪を凄まじい速度で投げ返した。唐突の雪合戦が始まった。
「それそれそれ!」
「おりゃああ!」
「うわ! それ反則!」
恵那が大量に小さな雪を投げるのに対して、庭島が容赦ないくらい巨大な雪だるまを投げつけた。あまりの衝撃で恵那の姿が雪原に還った。
「カタがついたな」
「今のはきついですって」
雪に埋もれていた恵那が顔を出した。ある程度、遊び終わった俺達は再び、部屋に戻った。その後はトランプやゲーム。テレビ鑑賞などをして三人での楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
「ほんじゃあな!」
「バイバーイ!」
「またね」
日をまたぐ前に庭島が雪の降る中、帰っていった。
「ソラシノ君はどうする? お泊まりする? それとも」
「泊まるよ」
「やったー!」
恵那が両手を上げて、歓喜の声を上げていた。元々、泊まる気で来ていた。それから俺達は互いに肩を寄せた。暖かい部屋の中、寄せ合う必要などないはずだ。以前の俺ならそう思っているだろう。だけど違う。側に心を許せる人間がいて、それから感じる体温は体だけではなく、心まで温かくしてくれるのだ。
「今日、楽しかったね」
「ああ」
毎年、どの季節も恵那と庭島がいる。彼らなしではこのような胸が踊るような楽しい思いは出来なかった。俺にとってなんでもない灰色の日がどれもこれも彼らのおかげで鮮やかで愉快な日々に変わっていく。
「来年も再来年ももっと楽しい日々にしようね」
「ああ、もっとたくさんの思い出を作ろう」
柄にもない事が今なら言える。かつての俺が見たら笑うだろうな。
「なら来年やることについて朝までお話ししようよ! 寝ないでよー?」
「いいよ」
シャワーを済ませた後、俺達は布団の中に入った。
その瞬間、電池が切れたように恵那が爆睡した。
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