「ラストサマー」

「だあああああああああ!」

 毎年恒例、真夏の恵那の雄叫びが響いた。


「毎度毎度やかましいな」

 恵那が壮大な海を見て、大声を張り上げる。その横で庭島がため息をついていた。

 しかし、その眼差しはどこか優しさを帯びていた。


 海は相変わらず人で賑わっており、どこを見ても人だらけだった。俺が視線を別の方に向けている間に恵那が凄まじい勢いで海に飛び込んだ。毎年このアクティブさに磨きがかかっている気がする。


 俺も彼女に遅れをとらないように海へ飛び込んだ。無邪気にはしゃぐ友人達。どこまでも青い海と空。最高の瞬間だ。我ながら青春というものを謳歌している気がした。


 昼になり、三人で近くの海の家に向かった。かなり動いたため、腹をすかせていたためにテーブルに広がったメニューはかなり豪華な光景だった。


 イカ焼き。浜焼き。焼きそば。焼きとうもろこし。フランクフルト。かき氷。目を見張るほどの量だ。それを三人で食べていく。はっきり言ってかなり多いが大半は恵那が食べていた。俺の胸元くらいの背丈の低さで一体、何故大量の食事が出来るのだろう。人体とは実に不思議だ。


「ごちそうさまでした! さて二人とも泳ぐぞ!」


「待て待て」

 庭島がため息交じりに追いかけて、俺も後を追った。そうして遊ぶうちに気づけば夕日が辺りを染め上げていた。昼間、人でごった返していた浜辺は悲しいくらい人がいなくなっていた。


「もう夕方かー そういえば、近くで祭りあるらしいけどいこうよ!」


「いいな。一回荷物置いてまた集合するか」


「そうだね」

 俺達は夏祭りの準備のために各自、家に戻った。



 約束の場所に向かうと既に恵那と庭島が待っていた。赤提灯が輝く屋台通りを進んでいく。


「相変わらず多いな」


「賑わっているよね」

 俺と庭島が人の多さに動揺している中、恵那が一人で次々と食べ物を買って行く。


「あいつ。昼あれだけ食ったのにまだ食うのか?」


「底なしだね」


「いやー 夏はいいね。美味しい屋台料理が食べられる」

 恵那が美味しそうに屋台のご飯を頬張る。その姿を微笑ましく見ていると後ろから激しい光が見えたと同時に大きな音が鳴った。後ろを振り返ると大きな花火が花開いていた。


 何発も色取り取りの花火が夜空で咲き誇る。他の人達も時が止まったようにピタリと足を止めている。それほどまでに瞳に映る花火は美しかった。

 


 祭りが終わり、俺達は近くの公園で線香花火を持っていた。


「見て! 庭島君!」


「わああ! やめろ! それ持って近くな!」

 恵那が嬉しそうに線香花火を振り回している。後少しで学生最後の夏が終わる。

 どこか虚しくも感じた。


「おーい! ソラシノ君!」


「早くこっち来てこいつ止めてくれ!」

 目の前で戯れる二人に愛おしさを覚えながら、俺は向かった。恵那が両手に持つ線香花火は俺達の夏を祝福するように何度も音を鳴らして、輝いていた。

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