「当日」
「多いな」
文化祭当日。俺は来客の数に圧倒されていた。人。人。どこもかしこも人だらけだ。
来客は大体、生徒の家族や友人。教師の関係者だ。
「ああ、気引き締めていこうぜ」
「よし! 頑張るぞおお!」
北原と庭島とともに天に拳を上げた。
俺達がやるのはカフェでメイドと執事という掛け合わせだ。早速、準備に取り掛かり、用意された背広に袖を通した。
「背広ってあまり着慣れないな」
「学生だと着る機会少ないだろうしね」
「お前は結構様になっているな」
「まあ対策本部の主催するパーティーで着る事はあったから」
「おーい! 二人とも!」
メイド衣装に身を包んだ北原がこちらに走って来た。外見は様になっているが、言動がお転婆なのはやや侍女の振る舞いとしては欠けているような気がする。
「可愛いでしょ! 人生初体験ですよ!」
「似合っている」
「良いじゃねえか」
「どうも! どうも! それにしても庭島君。体大きいし、顔も大きいからヤクザに見えるね」
「ああん? エンコ詰めるぞ」
「ソラシノ君は、うん、かっこいい」
僅かに言葉が詰まった。おそらく不恰好だったらしい。着替え終えた俺達は店が行われている教室に向かった。
「三番テーブル。バナナクレープ一つ!」
「二番、コーヒー二つ!」
「四番サンドイッチ三つ!」
教室の中は慌ただしく、騒然としていた。しかし、やることは至ってシンプル。文化祭が終わるまで、働くことだ。
「ソラシノ! 作るの手伝ってくれ!」
「任せろ」
俺は配属先に向かうと、即座に調理を開始した。メニューは予め頭に入っている。
「これ。あっちのテーブルにお願い」
「あいよ!」
次々と料理を作っていき、クラスメイト達が運んでいく。皆の巧みな連携を見ていると戦場を思い出した。
そうだ。ここは戦場だ。より素早く効率よく、任務を遂行できるかが勝負なのだ。
しばらくすると俺はクラスメイトから休憩をもらった。廊下の方に行くと看板を持った北原が立っていた。
しかし、どこか不穏な空気が流れていた。二人組の男が北原に絡んでいたからだ。
「へえ。可愛いね。君」
「この後、よかったら遊ぼうよ。カラオケとかどう?」
「うーん。遠慮しとく」
「いやいや、そう言わずに」
一人の男が彼女の手首を掴んだ。俺は急ぎ足で彼女の方に向かった。
「あのお客さん。当店の者にそのような真似はご遠慮ください」
「ああん? 何? 彼氏?」
「こちとら金払ってんだぞ」
二人の男が俺に詰め寄って来た。目つきを鋭くして、青筋を立てている。
「文化祭の治安を乱すなら出て行ってくれ」
「うっせえ!」
一人の男がなんともひ弱な拳を奮い上げて来た。俺は交わして、押さえ込んだ。
「てめえ!」
もう一人が突っかかって来たが俺の出る幕ではなさそうだ。
「はい。お客さん。出禁ね」
庭島がその強靭な腕で牽制してくれたからだ。その後、男二人は体育教員に入口の方に連れて行かれた。
「塩撒いとけ! 」
「どりゃあああ!」
クラスメイト達が二度とナンパ達が立ち寄らないように学校前に塩を撒いた。
「大丈夫か?」
「うっ、うん! ちょっとびっくりしたけど」
北原が少し頰を歪ませて、笑みを作った。
「さあ、行こう」
「うん! 文化祭楽しまないとね!」
気を持ち直した彼女とともに俺達は教室に向かった。
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