「文化祭準備」

 茜色が窓の外から差し込んでくる放課後、俺達は学校で文化祭の準備を始めていた。飾り付け。衣装合わせ。テントの設営。様々なことが学園内で行われていた。


 学業と文化祭の準備は学生の身としてはハードスケジュールのような気もするが彼らの目は輝いている。


 めんどくがっていた生徒達も動き始めるとテキパキと動き始めた。


「ソラシノ君。こっち来て!」

 北原がこちらに手招きした。


「うん」

 クラスメイト達を協力して、看板作りをしていく。皆、文化祭を楽しみにしているのか手際が良い。

「楽しいね。こうやってみんなで何かをやるのって」


「うん」

 今まで誰かと協力する時といえば、現場で戦う時だけだ。どうやって敵地に切り込んで、どうやって敵を仕留めるかという内容ばかりだった。


 しかし、今は違う。みんなで手を取り合い、思い出を残そうとしているんだ。


「悪い誰か! 買い物行ってくれないか!」

 クラスの男子が教室全員に向かって声をかけた。どうやら何かが不足したようだ。


「俺がいく」


「なら私も!」

 北原が勢いよく手を上げた。


「いいのか?」


「うん。それに人手があったほうがいいでしょ?」


「そうだな。北原といってくる」

 俺は男子生徒の元に買い物を引き受けた。学校を出ると、既に夕焼けで無くなる夜の闇が周囲を覆っていた。


「結構暗いね」


「早めに戻ろう」

 北原とともにやや早足で近くのコンビニまで向かった。


「たくさん買ったね」


「そうだな。予想以上だ」

 両手にビニール袋を持ちながら、学校へと歩いていく。

 

「ねえ。北原君は今、楽しい?」


「えっ?」

 北原が不意に立ち止まって聞いてきた。突然の行動に少し驚きつつも頷いた。

「どうしてそんな質問を?」


「ああ、いや。そのね。たまにソラシノ君って目が暗い目をしているからさ。無理言わせているのかなって」

 北原が引きつったような顔を作った。

 

「いや、そんな事ない。多分、それは昔と重ねているんだ。いまだに慣れないんだ。こういう普通の生活は」

 彼女に言った言葉に嘘はない。楽しい。信じられないくらい。それとともに火現実感をいまだに拭えないのも事実だ。

 

「そっか。なら仕方ないね」


「誤解が解けて何よりだ」

 俺のせいで彼女に心配をかけてしまった。どうやら俺は考えると顔に出るタイプらしい。


「じゃあソラシノ君が昔の辛いことと比べて笑っちゃうくらいの思い出作らないとね!」

 彼女が白い歯を見せて、笑った。ああ、この顔だ。この顔を見るたびに自分の顔は嘘だったんじゃないかと思うくらい心地よい気分になる。


「さっ! 学校に戻ろう!」

 北原に手を引かれて、学校へと向かった。


 そして準備を積み重ねて等々、文化祭当日を迎えた。

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