「最高学年初っ端の試練」
「うおおおおおおおおおお! テスト難しい!」
「くそ。なんでまたこんな」
「君達。落ち着きたまえ」
空き教室の中、庭島と恵那の断末魔に似た悲鳴が響いた。二人とも中間テスト対策の勉強で苦戦していたのだ。毎年、こんな事を繰り返している気がする。
少し前まで三年生になり、これからの日々に胸を膨らませていた若者二人がなんというザマだ。
「三年生になったら自動的に勉強できると思っていたよ」
「そんなわけないよ。寝言言ってないでペンを動かして」
「ひえええええ」
奇声をあげる恵那を嗜めながら、テスト勉強を進めていく。最高学年まで進級できて、ここで留年はあまりにも虚しい。
「さあ二人とも気を引き締めて」
俺は心を鬼にして、教鞭を振るった。
勉強が終えて、三人で学校から帰っていた。
「すっかり暗くなったねー」
「そうだな」
「お疲れ様。二人とも」
疲労の顔を浮かべる恵那と庭島が俺の横を歩いている。これが漫画だと頭から湯気が出ているだろう。
庭島と別れ、恵那を自宅まで送った後、俺は一人で帰っていた。明日は何を教えようと思考を巡らせた時、背後に凄まじい気配を感じた。早速、後ろに振り返った。
「やあ! 久しぶりだね」
「先生!」
そこにいたのはシライ先生だった。俺は安堵感で胸を撫で下ろした。
「買い物の帰りでね。偶然、見覚えのある後ろ姿があったからね」
「まさか、先生とお会いするなんて」
久しぶりに会う師を前に頰が緩んだ。
「入学して三年が経つとはね。年月が過ぎるのは早いものだね」
「ええ。全くです」
「どうだい? 学校生活は」
「楽しいですよ。今はテスト勉強に勤しんでいます」
「結構結構。楽しんでくれているようで何よりだ」
シライ先生がにこやかな笑みを浮かべた。この人には感謝しても仕切れない。
この人がいなければ今の俺はいない。
「若いうちに自分の中の世界は広げていた方がいい。特に君のような境遇の人間には。戦いだけの生涯なんてあまりにも虚しすぎる」
「そうですね」
何もない無機質な空間が俺の居場所だった。無駄のないというよりは何もない。きっと俺の心もそれに等しいものだっただろう。
「以前より君は笑うようになった。それは今までとは違って色々なものに触れたから起こった事実だ」
笑わなかった。確かに今まで学園生活ほど楽しいものはなかった。
「今はとても楽しいですから」
俺は笑みを浮かべた。先生もそれに応じるように笑みを浮かべた。
その後のテストで恵那と庭島は赤点を回避することに成功した。しかし、これが卒業まであと数回あると思うと少し気が遠くなった。
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