「沖縄」

「海だあああああああああ!」

 鼓膜が破れて、意識が遠のきそうな感覚がした。北原が歓喜の咆哮を上げたからだ。数ヶ月前に聞いた叫び声を再び、耳にした。北原が砂浜に響き渡る勢いで叫んだのだ。待ちに待った修学旅行。


「飛行機でも喋りまくっていたのにまだ元気なのかよ」


「体力の底が知れないね」


「まあ、俺達も楽しもうぜ!」


「だな」

 北原の強力なバイタリティに圧倒されながらも、僕達は海に飛び込んだ。空も海も澄み渡っていて、二つの青の間で俺達は自由を謳歌していた。


 辺りでは他のクラスメイト達も海を満喫している。俺自身、沖縄に来るのは初めてだ。


 それどころか旅行そのものが人生初経験だ。空から突き刺す太陽は眩しくて、他所から来た俺達を歓迎してくれているようにも思えた。北原に至っては病弱とは思えないほどのはしゃぎようだった。



「いやー 遊んだ。休憩!」


「騒ぎすぎだ」

 遊び疲れて、僕達三人は砂浜に腰を下ろした。目の前では未だに多くの同級生達が海を楽しんでいる。


 携帯に目を向けると時刻は午前十一時三十分を示していた。そろそろ現地にいる職員と合流する時間だ。


「悪い。ちょっと離れる」


「おう」


「いってらっしゃい」

 俺は北原と庭島に離れる事を告げて、目的地に向かった。





 忌獣対策本部からの情報によると既に現地には職員が派遣されているとの事だ。その職員と連絡を取り、今回の任務を遂行しろと言う事だ。

「確かここら辺に」


「あら。随分とお若いのね」

 近くの木陰に薄いパーカーを着た女性がいた。束ねて左肩に流した黒髪と凛々しさが漂う目が特徴的だった。


「よ。よろしく」


「ソラシノです。早速ですが現在の状況は?」


「動きはないわね。むしろ静かなくらい」

 北谷さんが足元のバックからパソコンを取り出して、鳥籠のアジトを示してくれた。


「街から離れた森の洞窟に小さいけど存在したわ。僅かにV因子も感知したわ」


「アジトという事は信徒や幹部もいる可能性もありますね」


「ええ。忌獣だけでも厄介なのに幹部がいるとなるとね」

 幹部。鳥籠の首領。迦楼羅から直接、力を授かった人間。忌獣とは比べ物にならないくらい強いらしい。俺も今まで当たった事はないので、より緊張感を覚える。


「作戦決行は明日の夜。集合場所は追って連絡するわ」


「はい」

 決行は明日。それに備えて、体を温めて置く必要がある。何より今、この沖縄には友人達がいる。彼らへと被害はなんとしても避けなければならない。


「それはそうとソラシノ君。後ろに見える女の子は知り合いかしら?」


「彼女?」

 後ろに目を向けると、遠くの木の陰から北原が見ていた。これはまずい。


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