「二人の人生」
明け方。ベランダから登る朝日を眺めていた。
「相変わらず早起きだね」
「お互い様だろ?」
寝癖がついている恵那があくびをしながら、隣に来た。高校を卒業して五年が経った。高校卒業を機に俺は恵那と同棲を始めた。相変わらず、忌獣を討伐する日々を送っている。恵那は専用主婦として部屋の中で家事をしてくれている。
「朝ごはんにしよか」
寝ぼけ眼で彼女が呟いた。俺が頷くと恵那はゼンマイを巻かれた後のおもちゃのようにテキパキと動き始めた。
恵那特製の温かい朝食を終えて、すぐに支度を終えた。
「それじゃあいってきます」
「いってらっしゃい!」
恵那の言葉に背中を押されて、扉を開けた。
「頑張れ! 正義のヒーロー!」
ベランダからこちらに向かって叫ぶ恵那。ご近所さんの生暖かい視線を感じながら、俺は手を振り返した。
午前の仕事を終えて、昼食の時間となった。恵那が作ってくれて弁当を鞄から取り出した。
「愛妻弁当ですか。いいですなあ」
桃色の髪をした女性が立っていた。綾川春華。俺の同僚だ。
「ああ、いつも助かっているよ」
「いいなあー。私にも一口ちょうだい」
「ならこの卵焼きを」
俺は卵焼きを彼女の口に放り込むと数秒後、彼女が満面の笑みを浮かべた。どうやら口に合ったようだ。
「この前の任務はどうだった?」
「無事、遂行したよ。でも二日後からまた別の現場。いやー。幹部は忙しいね」
綾川が重い溜息をついた。
「幹部ってそんなに忙しいの?」
「そりゃあもうね。というかソラシノ君も今年から幹部だから他人事じゃないぞー」
彼女のいう通り、俺は今年から幹部に昇進した。
「そうだよな」
「あーあ お熱い事! いーなー 私も彼氏欲しいな」
綾川が駄々をこねながら、サンドイッチを放り込んだ。
仕事を終えて、帰る前に近くの公園でコーヒーを飲んでいると聞き慣れた声が耳に入った。
「おうおう。隊長様じゃねえか」
庭島がコーヒー片手に近づいてきた。
「どうだ。任務の方は」
「まあまあかな。やる事増えて、ちょっと面倒だ」
高校を卒業した後、俺は戦場での評価が認められて隊長に昇格した。庭島も無事、戦闘員の一人として活躍しているらしい。
「この前の任務でかなり戦果をあげたらしいね」
「まあな。周囲に無事だったのが、俺だけだったっていうだけだよ。まあ、俺もそのうち隊長格までたどり着くから待っといてくれよ」
「その前に死なないでね」
「さらっとエグい事言いやがって」
庭島の身体能力と土壇場で発揮する力をかなりのものだ。彼なら幹部にもなれるだろう。
「北原はどうだ?」
「うん。相変わらず元気だよ」
「あいつは元気を通り越して、やかましいんだよ」
「それがいい」
「愛妻家め」
庭島が呆れたように笑った。ここ最近、忙しい日々が続いていたのでこうやって、彼と話すのは久しぶりだ。少し、学生時代を思い出せた。
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