「死闘」
血生臭い空気が辺りに流れる。その中を俺は駆け抜けていた。
「はああ!」
「グオオオオオオオオ!」
立ちはだかる忌獣を一体、また一体と切り倒していく。目の前にいる忌獣をより一体でも多く討伐する。そうすれば仲間も一般人も危険に晒されない。
「総員。周囲を警戒せよ」
「了解!」
部下に周囲を見張らせて、俺も武器を構える。ここは戦場、何が起こるは分からない。激戦と言えるほど、現場は混乱していた。戦闘員の叫び声と忌獣の雄叫びが響き渡る戦場で夥しい数の忌獣を切り倒していく。
遠くの方で何度も銃を発砲する音や爆発音が聞こえる。なにやら激しく思えた俺はそっちの方に向かった。
現地に着くとそこはまさに荒地だった。木々がなぎ倒されて、そこら中に戦闘員が倒れている。
辺りを見渡すと細身の男が戦闘員の首に噛み付いていた。噛み付かれている戦闘員は枯れ木のように細くなっており、戦闘服が合わなくなっていた。
「あああ、美味えな。日頃から動き回っているやつの血は」
男が戦闘員を地面に捨てると俺の方を見た。
「お前の血はどんな味かな?」
突然、男が凄まじい速度で迫ってきた。俺はすぐさま攻撃に備えて、
「血の匂いがする。血で作ったのか?」
「ご名答だ。北原ソラシノ」
俺の名前を呼ぶとやつは一度離れた。
「俺の名前は
「そうか。でも俺を倒すのは無理だよ」
「あっそう」
啜と名乗った男が突然、近くの戦闘員の死体に噛み付いた。吸血しているのだ。
俺はそのすきに斬りかかろうと走った。しかし、凄まじい速さで避けられた。
「さっきよりも速さが上がっている。吸血で身体能力が増すのか」
「そうだ!血を吸えば吸うほど強くなるのさ! だから死体と血だまりの多い戦場は俺にとってはご馳走パラダイスってわけだ」
啜が不気味な笑みを浮かべながら、右手から血で何かを作り始めた。
「
血で作られた無数の矢を放ってきた。俺は的確に攻撃をかわして距離を詰める。
「
啜が赤黒い球体を俺に投げつけてきた。その瞬間、音を立てて破裂した。爆発と同時に中から無数の小さな針が勢いよく飛んできた。俺は剣で捌いて距離をとった。
幹部ということもあり、中々手強い。ここはすぐにカタをつけよう。俺は異能を使うことにした。
「
俺が唱えると聖滅具の刀身を黒い雷が纏い始めた。俺は一歩踏み出した瞬間、通常の倍以上の速度で啜の近くまで近付いた。
「なっ! なに!」
予想外の早さだったのか、やつは目を見開いていた。黒い雷を纏う刀身で啜を斬りつけた。
「ぎゃああああああ!」
感電しながら、奴は喉から血が吹き出そうなほどの悲鳴をあげた。奴は白目をむいて、その場で倒れた。俺は援軍に現在地を連絡したのち、その場を後にした。
恵那も今、戦っているんだ。俺も負けてはいられない。必ず生きて帰る。固く誓いながら、襲い来る忌獣に剣を振っていく。血と悲鳴。惨劇の象徴とも言えるその二つが辺りを埋め尽くしていた。先を進んでいると見慣れた顔の人物が横たわっていた。
「天王寺!」
「悪い。ポカした」
天王寺が冗談を飛ばしながら、口の端から血を流している。俺は急いで手ぬぐいを取り出して止血する。しかし内臓が深く傷ついているせいか、血が止まらない。
「医療班は呼んだのか!?」
「ああ、でもこりゃ間に合わねえわ」
傷口を抑える彼の指の隙間から赤黒い血が溢れ出る。
「ソラシノ。行け」
「でも」
「いいから!」
天王寺の怒気にも似た声が耳に入った。
「死ぬなよ」
すがりつくような思いを込めて、言葉を吐いた。そして、振り返らず前に進んだ。
しばらく進んでいると無線に連絡が入った。
「北原。迦楼羅が出た。今すぐにマップに表示した場所に向かってくれ」
その知らせを聞いた時、心臓の鼓動が早くなった。
「分かりました」
俺は送信されたマップを開いて、それを頼りにターゲットの元に急いで行く。今から戦うのは今までの相手とは比較にならない強さを持つ敵だ。
目的地に近づくに連れて、血の匂いが漂い始めた。進んで行くほど、その匂いは濃くなり不快感を覚え始めた。
目的地に着くとそこは閑散とした岩壁の付近だった。そして、黒い仮面を被った人物が悠然と立っていた。
その周りには血の海に沈んだ夥しい数の戦闘員達がいた。
「
最悪の敵がそこにはいた。
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