「白雪の中で」
季節は冬になり、辺りの気温は徐々に下がって、冬の訪れを感じた。
「寒いね」
「だな」
いつものように三人で屋上に上がった。ただ変わったことがあるといえば、少し厚着になったくらいだ。三人で自販機のココアで手を温めながら、のんびりと過ごしていた。
「おっ! 雪だ!」
北原が空を見て、叫んだ。雪が一つ。また一つと降ってきた。
「こんな震えるくらい寒けりゃそりゃ降るよな」
雪に抱くイメージは忌獣の血で赤く染まるものというくらいだ。あとは生まれ育った真っ白い無機質な部屋。
「綺麗だな」
「そういえば、もうすぐクリスマスだね!」
「もうそんな季節か」
クリスマス。主にイエス・キリストの生誕祭を祝う日だが、世間ではサンタクロースという老人が子供達にプレゼントをあげる日。または家族や恋人と過ごす日となっている。
「早いよねー。みんなはクリスマスとは予定ある?」
「特に何も。毎年。家で出るケーキ食べるくらいだな。外は寒いし」
「多分、精密検査かな?」
「精密検査?」
「一年歳を重ねる度に研究室で行われる身体検査だ」
「歳取る?」
「ああ、十二月二十五日。俺の誕生日だから」
「えっ?」
「そうなの!」
「うん」
そんなに驚くことだったのか。二人はまるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
「そういや。お前からそういうの聞いたことなかったな」
「誕生日ってそんなに重要かな?」
「大事だよ! プレゼントもらったり、ケーキ食べたりとかなかったの!」
「そういった経験はないな」
「じゃあ! 十二月二十五日。クリスマス兼ソラシノ君のパーティーをしようよ!」
北原が勢いよく立ち上がり、提案した。
「そりゃ良いけどさ。ソラシノはどうなんだ? 検査なんだろ?」
「多分、大丈夫だよ。検査自体は午前中に終わるからおそらく午後からは自由だ」
「そうか。ならするか。クリスマス兼誕生日パーティー」
「おっしゃあああ! 楽しみになってきた! 楽しい一日にしようね!」
北原がこれでもかと言わんばかりに体を振り回している。時折、咳き込んでいるので俺は少しなだめた。
その日の夜。俺は一人、公園のベンチに腰を下ろしていた。研究室の門限は時間があるので缶コーヒーを片手に今日、二人と話していたことを思い出していたのだ。
「誕生日パーティーか」
人生で誰かに誕生日を祝ってもらう。今までそんな事はなかった。シライさんならおそらく祝ってくれただろうが、おそろく
そこらの情報も研究室の人間が余計な事を吹き込まれないようにとガードされていたのだろう。
研究室ではそんな事は一度もなかった。バイタルチェックと戦闘訓練と座学。何も変わらない。外は日々に特別なものが存在するのだ。
「最高の一日か」
コーヒーのせいか、感情の高ぶりなのかよく分からないけど胸の奥が暖かくなった。
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