「抜け殻を照らす」

 どんよりとした雲が空を覆う中、俺はパソコンと向かい合っていた。天気と同様に対策本部にも同じような空気感が流れていた。


 無理もない。数日前、忌獣対策本部首長である聖堂寺輝が殺害されたのだ。


「そういえば聞きましたか? 首長の一件」


「ああ、犯人は一人息子らしいな」

 横に座って入る若い職員が俺に声をかけてきた。話によると息子の手によって殺されてしまったらしい。当の息子は行方不明。マスコミに真実に露見するのはまずいので他の理由を挙げるらしいが、忙しくなりそうだ。


「噂では奥方が首長代理として務めるらしいですよ」


「そうなのか」

 思った以上に事態は深刻らしい。首長が亡くなる前にも大規模な掃討作戦においても夥しい数の戦闘員が殉職した。その中には幹部である俺の友である天王寺や綾川も入っていた。この短期間に立て続けに人がいなくなれば、社内の空気も淀んでしまうのも、無理はない。


「あっ、そういえば、北原隊長。娘さん生まれたんですよね。おめでとうございます」

「ありがとう。帰る場所があるっていうのはいいもんだな」

 俺は部下に笑みを向けた。俺自身も恵那が亡くなったのだ。この短期間で大事な人が何人もいなくなった。


 正直、心臓をえぐられるような辛さだ。未だに恵那の死を乗り越えられた訳ではないが、着実に調子が戻って来ている。


 それにいつまでも落ち込んでいては向こうに行った時、恵那のいつもの騒音ボイスで説教を受けてしまうだろうからな。


「おっと。そろそろ時間だから失礼するよ」


「はい! お疲れ様でした!」

 部下の見送りを受けた後、俺は会社を出た。



 家の扉を開けると庭島が娘の眠る娘をあやしていた。


「おー ようやく帰ってきたか」


「悪いな。休日なのに風香の面倒見てもらって」


「別に構わねえよ」

 庭島がそう言って、俺に風香を手渡した。腕の中で寝息を立てる愛娘。


「母子ともにそっくりだな」

 庭島が仏壇の中の恵那に目を向けた。


「ああ、遺伝子ってすごいよね」


「ゆっくりしとけよ。なんか飯作ってやるよ」


「助かる」

 庭島がリビングに向かって、手際よく料理を始めた。


「あいよ。簡単なもんばっかだけどよ」

 庭島がいくつも料理を差し出してくれた。早速いただくことにしよう。


「美味いな」


「どうも」

 お世辞抜きでかなり箸が進んでいく。仕事で疲れた体にしみる。以前までは恵那が作ってくれていたが、いなくなってからは俺が一人で作っていた。そして時折、庭島がこうして手を貸してくれるのだ。


「ごちそうさま」

 食事を終えて、食器を水につけた瞬間、風香が泣き始めた。俺と庭島が必死に娘をあやしに向かった。

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