「来客」

 チンピラ二人を払いのけた後、俺は接客の方に戻った。次々と生み出されていく料理を的確にお客の元へ届ける。


「随分と精がでるね」


「先生」

 注文を聞きに言った先に見覚えのある老紳士が腰掛けてきた、忌獣対策本部時代、剣術で世話になった松阪先生だった。


「だいぶ学校生活に馴染んだようだね」


「まあ。半年近くもいますから」


「そうか。良かったよ」

 先生が朗らかな笑みを作った。以前といい、先生は何度も俺を気にかけてくれた。 この日々を与えてくれたこの人には頭が上がらない。


「ではアイスコーヒーを一ついただこうかな」


「すぐご用意いたします」

 恩師に注文を通して、即座に提供した。先生はカップに予備をかけるとゆっくりと喉に流していく。


「うん。美味いね」


「ありがとうございます」

 先生はコーヒーを飲み干すと、会計を済まして教室を後にした。


「今の人ってソラシノ君の知り合い?」

 北原が肩の横から顔を出してきた。どうやらさっきの光景を見ていたらしい。


「ああ、対策本部にいた時、世話になった人だ」


「きてくれたんだね」


「ああ。さて文化祭も大詰めだ。いくぞ」


「うん」

 文化祭終了まで残り数時間、俺はすぐに現場に戻った。




 夕焼け染まる中、私は家路を歩きながら電話をしていた。電話の相手は忌獣対策本部の首長。聖堂寺輝様だ。


「シライ。様子はどうだった?」


「馴染んでいますよ。はたから見ればどこにでもいる普通の学生です」


「そうか」

 電話先で安堵したような声が聞こえた。


「彼、笑うようになりましたよ」

 忌獣対策本部に現れた天才。そう呼ばれていたかつての彼は目が鋭く、冷たいものだった。


 人と接する事は出来るものの、親しくなるつもりはなかった様子だった。しかし、今は違う。友がいるのだ。


「あいつが笑うようになったのか。それは良かった」


「ええ、それにしても輝様がソラシノ君を学園に行かせたいと行った時は驚きましたよ」

 ソラシノ君に学校を薦めたのは私だが、提案したのは輝様だ。生まれた時から研究施設と戦場しか行かない日々を送っていた彼を不憫に思っていたのだ。


「あいつが生まれた時から決めていた事だ」


「英断ですな」


「はは。なら良かった。では私は仕事がまだ残っているので失礼する」


「はい。長々とありがとうございました」

 電話を切る音が聞こえる懐に携帯を入れた。


 学友達と共に文化祭盛り上げていた彼は実に生き生きとしていた。私もあんな彼の姿をずっと見たかったのだ。


 夕焼けに染まる空。茜色の光が学園側の方を強く照らしていた。

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