「将来」

 夕焼けが明るく照らしている河川敷。庭島と夕日を眺めながら、くつろいでいた。

 今日は北原が他の友達と遊びに行くため、久しぶりに庭島と二人で放課後を過ごしていた。


「なあ、知っているか。クラスの委員長。もう大学受験に向けて勉強しているらしいぜ。やっぱいい大学行こうとしているやつは違うな」


「将来か」

 庭島や北原含めた多くの人達は実際に進学やら就職に向けて、準備をする。それが社会では現代社会では当たり前だ。だけど俺は今まで当たり前から逸れてきた人間だ。きっと俺は別の未来になるのかもしれない。


「なあ、ソラシノ?」


「なんだ?」


「馬鹿なこと言うかもしれないけどよ。俺さあ、忌獣対策本部に行くわ」

 耳を疑った。今までそんな予兆なんて一つもなかった。


「なんで?」


「一年の時、忌獣に襲われた時覚えているか?」


「うん」


「あの時、俺は何も出来なかったなあって思ったんだよ。俺って体大きめだろ? そこそこガタイあるからタイマンで負けることなかったんだけどさ。あれを前にしたらな」

 庭島が重くため息をついた。どうやらあの時に彼は無力さを感じていたようだ。


「庭は運動神経も力もあるから、身体テストは問題ないだろうけど、頭は」


「勉強するって!」

 彼の必死な様子に笑みがこぼれた。将来的に彼とは仕事をする事になると思うと、楽しみだ。


「お前はどうするんだ?」


「俺は分からない」

 将来なんて考えたこともなかった。ただ、死ぬまで忌獣を討伐し続ける日々が続くと思っていたからだ。ただ、この未来にも疑問が一つあった。


「忌獣がいなくなった後、俺ってどうなるんだろう」

 俺は忌獣を討伐するために生まれてきた。つまり忌獣がいなくなれば不要という事になる。


「何でもなれるんじゃないのか?」


「なんでも?」


「不確定曖昧。怖いだろうけどさ。それは楽しいんじゃないのか? 誰かじゃなく、自分で決める。未来ってそういうもんだろ?」

 庭島がそう言って、にこやかな笑みを浮かべた。


「何にでもなれる。何にでも変われるか」


「ほんじゃあ、行くか。アイス食おうぜ」


「うん」

 俺達は二人で近くのコンビニに向かった。その日食べたアイスは不思議といつもより甘く感じた。


 

 その日の夜。ソラシノは北原と電話をした。彼女は友達と出かけた事を楽しそうに話していた。持ち前の明るさと人徳に恵まれた彼女の周りにはいつも人がある。

 俺にはない才能だな。


「今日。庭島君と何してたの?」


「んー 話をしていた」


「何を?」


「将来について」


「あー 将来か」


「北原は何かしたい事あるのか?」


「私はどうだろ? 今まで将来なんて想像した事なかったな」


「そうか」

 北原は将来というものに対して、あまり良い印象を抱いていない。おそらくあまり強くない自分の体が原因だろう。


「でも今はソラシノ君といたいと思っているんだ」


「俺と?」


「うん。未来は分からないけど、今、自分が何をしている時、幸せなのかは分かるよ」

 電話越しから明るく、優しい声が聞こえる。その時、自分を縛っていた枷のようなものが落ちた気がした。


「俺も北原と一緒にいたい」

「同じだね」


「うん。今まで自分に未来とか将来を選択する権利なんてないと思っていた。学生になって選ぶ権利を得た今でも、結局将来なんて分からなかった」


「うん」


「でも、今に焦点を置くなら分かる。俺は北原といたい」

 未来はわからない。不確定曖昧。でも何にでもなれる。しかし、あまりにも膨大すぎるのだ。なら今、大事にしているものを持って、進んでいけば確定になる。なら俺は彼女との未来を選ぶ。


 すると携帯の向こう側が静かになった。しばらくすると少し鼻声の北原が出た。


「どうした?」


「ごめん。自分が思った以上に嬉しくて、言葉が出なかった。言い出しっぺなのにね」


「おお、そうか」

 その夜は彼女が飽きるまで話した。翌日、二人とも寝不足で登校した。


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