「わがまま」
休日。俺は一人、北原を待っていた。久しぶりにデートというやつだ。ここのところ、作戦が忙しく二人で出かける時間が取れなかった。
「ごめーん!」
北原が飛び回る子犬のような躍動でこちらに向かって来た。
「いいよ。時間には間に合っているし」
「そかそか! それで今日はどこに行きますかな!」
「そうだな。今日は」
それから俺は考えていた事を次々と実践した。映画館。最近の若者に人気の店。
ゲームセンター。インターネットと周りにいる人達のデート風景から得た情報を元に彼女をエスコートした。
「あー 疲れた!」
「少し休むか」
一息つこうと街のはずれにある公園のベンチに腰掛けた。青空が澄み渡るほど、広がっており、近くでは子供達が走っていた。
「こうして二人で出かけられるのも久しぶりだし、楽しいね!」
「すまないな。あまり出かけられなくて」
「いいよいいよ! ソラシノ君がやっている事って凄く大切だから!」
「理解があって助かる」
彼女には感謝している。この年頃だと交際相手と色々な行きたいだろう。
「ただ、一つだけ。わがまま聞いてもらっていい?」
「ああ」
すると彼女が俺の左肩に頭を寄せて来た。
「このまましばらくいていい?」
「いいよ」
「あはは。やったー」
快諾すると恵那が安堵したような笑顔を浮かべた。数秒後、左肩から寝息が聞こえた。
歩き回った疲労と温かな日差しが眠気を誘ったのだろう。彼女が目覚めるまで、満足がいくまで俺はここにいよう。
辺りが夕焼けに照らされた頃、目が覚めた。俺が。目を開けると彼女の顔が近くにあった。
「あっ! 起きた!」
どうやら彼女の膝を借りていたようだ。彼女のわがままを聞くつもりが逆に彼女を頼ってしまった。
「すまん。寝てしまった」
「いいよ! 私も十分ゆっくりできたし!」
彼女の膝からゆっくりと頭を起こして、夕日に目を向けた。
「それにしても意外と可愛い寝顔だったね」
「どうも」
今まで自分の寝顔なんて気にした事はなかったが、こうして口にされるとなんともむず痒い。そんな俺は揶揄うように茜色の夕日が俺を照らした。
夕飯を終えて、北原を家まで送っていた。昼間とは彼女はどこか静かだった。疲れたというのも理由の一つだろうが、多分別だ。
「ありがとうソラシノ君! じゃあまた、月曜日」
北原が踵を返して、部屋に向かおうとする。その背中にどこか寂しさを覚えた。
「あのさ」
「どうしたの?」
「これは、俺のわがままなんだけどさ」
生唾を飲んで、声を絞り出した。
「もう少しいたい」
「えっ?」
「明日の朝は訓練だけど早めに出れば問題ない。だから、もう少し一緒にいないか?」
俺の言葉を察したのか、彼女の顔色が一気に明るくなった。
「うん! 分かった! でも、ごめん! ちょっと! 待って!」
ドアの向こう側から心配になりそうなくらい、大きな物音がいくつか聞こえた。
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