「もつれ」
「死ねええ!」
北原を助けようとする庭島に熊谷が襲いかかる。俺はすぐさま、助けに向かおうとしたが熊谷が振るった中華包丁が庭島を斬り付けた。
溢れ出る血が膝から崩れ落ちる。悲鳴を上げて、庭島の仲間を叫ぶ北原。俺のせいだ。俺がしっかりと気絶させていればこんなことにはならなかった。
俺のせいだ。俺のせいだ。俺が俺が俺が俺が殺したんだ。
突然、目覚ましのアラームが鳴った。額と頭皮から滲み出る汗。どうやらこの前の出来事は思った以上に精神をかき乱していたみたいだ。
しかし、都合がいい。これで俺はより強くなれるのだ。俺は汗を流すために洗面台に向かった。
学園に向かいながら、俺はこれから行うトレーニングについて考えていた。訓練自体は研究室で行なっているが、それだけでは足りない。
もっと自主訓練にも重きを置かなくてはいけない。
「おっはよーう!」
突然、世界に衝撃が飛んで来た。振り返ると北原と庭島がいた。
「よお」
「二人とも。おはよう」
「どうしたの? 顔色悪いよ」
「あはは。寝不足かな」
首を傾げる北原に俺はそれとなく答えた。まあ悪夢に魘されていたので、熟睡できなかったのは事実だ。
彼らとの会話に意識を向けながら、俺はトレーニングについて考えながら、正門に向かった。
放課後、考えたトレーニングを実行する為、足早に教室を出た。
「ねえ! ソラシノ君。今日の放課後さ」
「悪い。訓練だ」
北原に呼び止められたが、俺は振り返ることなく学校の外に向かった。
そして、次もその次も彼らを振り切って、訓練に臨んだ。研究室のトレーニングにプラスで自主トレーニング。かなりハードだがなんとかこなせている。
そして近々、現場に駆り出されるらしい。トレーニングの成果を発揮する絶好の機会だ。心して望もう。
放課後がやって来た。数時間後、現場に直行だ。
「ねえ、ソラシノ君」
「悪い。今日は現場にーー」
「私達の事、避けているよね?」
夕日が指す廊下で北原がそう言った。彼女の丸く愛らしい目が少し憂いを置いているように見えた。
「私が誘拐されてからだよ」
「関係ない。偶然だ」
「タイミングが良すぎないか?」
庭島の疑惑を孕んだような目が俺の顔に向けられる。
「私が誘拐された時のこと、気にしているの?」
静かな空気が俺達の間に流れる。沈黙は肯定だと理解しているが、動揺のせいか言葉が出ない。
「私、怒ってないよ! ソラシノ君の事、怒ってないよ!」
「あれは俺の責任でもある。だから一人を背負うな」
「君が許しても俺は自分を許せない。油断した自分を許せない。慢心した自分を許せない」
誘拐された時も完璧に救ってみせると慢心した挙句、庭島が斬り付けられそうになった。
普段の俺ならしないはずだ。もう二度と同じ過ちを犯さないために進むしかないのだ。
「悪い。今日は任務なんだ。じゃあ来週の月曜日に」
「おい! 待てよ!」
「ソラシノ君!」
彼らを振り切るように俺は正門に向かった。
血生臭い現場の中、俺は辺りを見渡していた。草木が一本も生えていない荒地。
そして、足元には俺が先ほど討伐した忌獣の死骸が転がっている。
「ゲルルルルルル!」
「オオオオオオオオ!」
それでも今回は数が多いのか。絶えず、忌獣がやってくる。手に持った血まみれの聖滅具。
迫り来る忌獣達に振りかざした。斬る。抉る。貫く。何十何百と繰り返して来たその動作。ただいつもと違うのは大切な人を傷つけられたくないと言う確実に殺すと言う明確な意思を持った事だ。
機械的にこなすのではなく、殺意を持って執行する。そして、この時、初めて他の隊員達が忌獣を憎んでいるのか心底理解できた。
「もう誰にも傷つけさせない」
戦闘の最中、脳裏に北原と庭島の顔が浮かべながら、襲いかかる忌獣を手当たり次第、斬り刻んだ。
これまでは奴らの弱点である脳を斬る。または破壊することに重きを置いていた。
しかし、今は脳だけではない。忌獣の手足や胴に到るまで原型を残さない勢いで切り刻んだ。
『区域から忌獣の生体反応なし。戦闘員は直ちに護送車の位置まで戻ってください。
しばらくすると無線機から帰還命令が下った。戦闘が終わった事に安堵していると、視界の端が眩しくなって来た。
目を向けると東に見える稜線を陽の光が染め始めていた。
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