「修学旅行」

 担任の先生が黒板に文字を書き込んでいく。何度も見たありふれた光景だが黒板に刻まれた修学旅行という聞き慣れないワードに思わず、目を丸くした。


「と! いう事で来月は待ちに待った修学旅行です!」

 その言葉と同時に教室が一斉に沸いた。ある生徒と叫んで、またある生徒は机を叩いて演奏を始めるなど狂乱としていた。


「修学旅行?」


「他の場所に勉強と称して旅行に行くんだよ」

 庭島が頬杖をつきながら、眠そうに答えた。修学旅行。初めて聞くワードだ。クラスメイト達の姿を見て、僕はことの重大さを感じていた。


「修学旅行先は! 沖縄です!」

 拍手が湧き上がった。日本の最南端にある島。美しい海と温暖な気候で国内でも屈指の人気観光地だ。


「アロハー」


「海いきてえええ!」


「なんくるないさー」

 クラスメイト達が好き勝手喋り倒している。


「まあそれに当たって行動する班を決めたいと思います。みんな各自選んでくださいね」

 それからクラスメイト達は誰と修学旅行の班を組むかを話し合った。俺はもちろん北原と庭島だ。というか北原の圧に押されたというのが主な原因だ。






「いやー 楽しみだね! 沖縄!」


「そうだな」

 学校が終わって部屋に戻った後、北原と電話をしていた。旅行という名目で別の土地に行くのは初めてだ。かなり楽しみだ。


「私。旅行ってあんまり行った事ないからさ」


「俺もだ。自由に旅行なんてなかった」

 忌獣対策本部の監視下での人生。自由な外出。ましてや旅行なんてものはありえないものだった。しかし、今の俺にはその自由がある。


「なら一層楽しめるね!」


「ああ」


「あっ! お風呂湧いたから切るね! また明日!」


「おう。明日な」

 忙しなく電話を切った彼女を思わず、笑みを浮かべながら電話を切った。修学旅行という一生に一度しかないイベント。友人達とならどこまで果てしなく楽しめる。そう確信した。


 すると再び、着信音が聞こえた。携帯を見ると対策本部からだった。北原と話していた事もあり、少し気落ちする感じを抱きながらも、電話に出た。


「ソラシノです」


「近々、学校のイベントで沖縄に行くらしいな」


「その予定です」

 俺の言葉を待っていたと言わんばかりに職員が話し始めた。


「沖縄に鳥籠のアジトが確認された。是非、対処してほしい」

 なんとなく予想はついていた。しかし、いざ口にされるとこうも気分が沈むものだ。心の中で凄まじいため息をついた。そうとは言え、やらないわけにはいかない。


「かしこまりました」

 俺は返事に応えた。そのあと、諸々の説明を受けたあと電話が切れた。

 修学旅行と任務の両立。これは荒れそうだ。


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