第42話 成長と出陣

先生と合流する前に、やることがある。

鎧の仕立て直しだ。

今回の戦いは、是非ともあの鎧で参加したい。

そうと決まれば、直行だ。

宿舎から鎧を取り、デラさんの所へ向かう。

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店には珍しく、人っ子一人居なかった。

代わりに鉄を打つ音、せわしなく駆け回る少女の足音が聞こえてきた。


一応声を掛ける。


「すみませ~ん。」


返事は無い。

それもそうだろう。この街の有事だ。根幹となる人と武器は、忙しいのだろう。

良く考えれば分かることだ。こんな時に仕立て直しを頼むのは気が引ける。

惜しいが、鎧はどこかで借りることにしよう。


そう思い店を出ようとすると、騒音に紛れて声がした。


「アルか?仕立て直しだろ?ちょっと待ってろ!」


鉄を打つ音が止み、デラさんが出てくる。


「おおよそ帰ろうとでもしてたな?こんな上等な鎧、今回の戦いで使わねえでどうすんだ。」


そう言うと彼は、僕の手から鎧を取った。

いつの間にかエレロちゃんも出てきたようで、慣れた手つきで僕の体を測る。


「お客さん、随分逞しくなったね!」


照れるなあ。そう言えば今日の彼女は、ウィスに目もくれない。

完全に仕事モードなんだろう。偉い子だ。


「これくらいならすぐ終わる。なんせ筋力が増強しているだけだからな。骨格が変わっている訳でも無い。」


そういうと彼と彼女は鎧を持ち、工房へと戻った。

そして十分もしないうちに、こちらへと戻ってくる。


「ほれ、出来たぞ。スタンピードが来るのも久しぶりだ。その鎧でガンガン活躍してくれよ!」


そう言えば、サイフォス先生も、辺境伯も、スタンピードは今回が初めてではないような言い回しをしていた。

そこまで頻繁にあるようなものなのだろうか。だからこそ、スムーズな避難や対応が出来ているのだろうか。


取り敢えず詳しくは先生に聞くとして、デラさんにお礼を言い、合流地点へと急ぐ。

先生は早速遊撃をするために、森側の関所で待つと言っていた。

調整してもらった鎧を着こむ。

体にぴったりと馴染む。やはりデラさんは腕がいい。


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いつもは人通りも少なく閑散としている関所だが、今日は様子が違った。

遊撃のために冒険者や、街の貴族とその私兵、領民でさえも頻繁に出入りしている。


先生は壁にもたれ掛かって、眠そうにしていた。

僕の姿を見つけるなり、買い物にでも行くような気軽な様子で声を掛ける。


「お~い!遅いよ~。」

「お待たせして申し訳ないです。」

「全く。でもその鎧、いい感じだね。期待してるよ。早速行こうか。」


この人と話していると気が抜ける。

思えば、この人が魔物と戦っている所を見たことは無い。

ただ、僕には想像もつかない程強いことは分かる。

それを見ることが、少し楽しみではあった。


そして一番の楽しみは僕の成長。

短い期間ではあったが、それなりに努力した。

それが、どこまで通じるか。


昨日の夜、久しぶりにステータスを見てみることにした。

修行の間は、自分の努力を数値化するのが何か野暮だと思い、意図的に見ないでおいた。ショートケーキの苺は最後に食べる派だ。


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名:アル〈21〉

Lv:15→15

【技能】【習熟度】

格闘術:4→5

剣術:3

New トゥリエナ流剣術:5

短刀術:4

威圧:1

New 身体操作:3

New 超回復:3

毒耐性:2

[索敵:4 隠密:4 罠術:4 暗殺術:1]定着により統合

統合後→New 暗殺者ショウシンモノ:5


【魔法】

固定魔法:6→7

魔力操作:5→8

魔力自然回復:5→7

【加護】

アルギュロスの願い

【従魔】

ウィステリア Lv:10→32

「技能」:純化

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と、このような成長をしていた。

剣術がドンと伸びているかと思ったが、そうではないらしい。

別の「トゥリエナ流剣術」という技能が発生していた。

どうやら流派によって技能も変わるらしい。やり込み要素としては有難いが、一つの流派に手一杯の僕にはまだ無縁の話だろう。

魔法に関しても、修行のおかげで操作と回復が伸びている。

身体操作、超回復等の新しい技能も増えた。


そして二つ程、ツッコミ所があるだろう。

一つは技能の「統合」だ。なんか卑怯だなあと思っていたものが全て、暗殺者ショウシンモノという技能になっていた。

その発生条件や理由はもうどうでもいい。

名前だ。小心者て。酷くない?アサシンとかでよくない?


そしてもう一つ。

ウィスだ。あまりに強くなっている。

僕のレベルなんてとうに抜かして、32。新しい「純化」なんて技能も身につけている。

確かにサイフォス先生とよく森に出て行っていたが、ここまで強くなっているとは。

全く気が付かなかった。しかし、頼もしいものだ。


物思いに耽っていると、サイフォス先生から声を掛けられた。


「早速だけど、遊撃の時間だ。今日のノルマは百体でよろしく。」


ん?


「ウィスちゃんと僕チーム。アル君は一人チームね。」


んん?


「さあ、しゅつじーん!」


いつもと変わらない軽い口調で、とんでもないノルマを課す先生だった。




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