第31話 提案と買い物


「おうおう!とんでもねえ怪我したらしいじゃねえか!アル!」


解体所のルクーダさんはご機嫌に言う。


「本当、とんでもない目に遭いましたよ。」


「何はともあれ、生き延びた訳だ。依頼も成功。最高だな。」


その通りだが、そこまで楽しそうにされると釈然としないものだ。


「ええ。それで、買取をお願いします。」


僕は小竜の素材を鞄から取り出す。


「これは…。たまげたな。」


その状態の良さに、彼は驚いていた。


「おい、どうやって狩った。目立つ外傷は殆ど無いぞ。羽はボロボロで使い物にならねえが、この体、傷一つねえ。」


これが僕が楽しみにしていた理由だ。

翼は仕方ないとしても、体には殆ど傷を付けていない。

首と背中にある小さなものだけだ。


「都合良く黒雷蜂の毒が手に入ったので、それで。」


彼は体毛か髭か分からないような、顎の毛を撫でて少し黙る。


「感心したな。それで、蜂の素材は。あれもいい値段になるぞ。俺は早速査定に入る。ちょっと待ってろ。相談がある。」


僕は査定が終わるまで、広場に行くことにした。

自分なりに大仕事を終えた後だ。少し贅沢をしよう。


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広場では屋台飯を楽しんだ。

現代では、お祭りくらいでしか目にしないそれに、心が躍った。

これが毎日やっているというのだから、凄いことだ。


やはりまずはファンタジー定番の肉串。

元の世界では平気で千円くらいしたものだが。

ここでは500ドラクで買うことが出来る。


貨幣価値としては普通に1ドラク1円くらいなんだろう。

覚えやすくていいことだ。


三本購入して一本は味付け無し。ウィス用だ。

これは魔物肉では無く、家畜の牛にこだわっているという。

だから少し高い方らしい。


慣れ親しんだ牛の旨味は堪らなかった。

魔物肉も美味しいのだけれど、何というか、共通する不思議な風味がある。

一体何なのだろう。魔力の味?聖魔力水と良く似ている。


後は香辛料が効いたチャーハンのようなもの。

日本米というよりはタイ米のような穀物だったが、米食というのは心を癒す。

なりふり構わずがっついた。


そしてもう一つ。小麦粉と芋を混ぜて、薄く焼いたナンみたいなもの。

これは正直、微妙だった。

良く動画サイトで見ていた、インドネシアの屋台みたいだ。

でもウィスは、ガツガツと食べていた。


そして近くにあった服屋で、少し買い物をした。

この血塗れの服じゃ、目立ちはしないのだろうが落ち着きはしない。

出来るだけ地味な服を、上下セットで二着購入した。

全部で1万ドラク程度したが、まあ、必要経費だ。


こうして僕は十分に屋台飯と買い物を楽しみ、ルクーダさんの元へ戻った。


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戻って早々に、ある提案を受けた。


「この皮と鱗は、売らない方がいい。」


彼は丁寧に処理された一枚の皮を持ち、およそ買取の人間とは思えない言葉を放った。


「そのナイフ、デラのだろ。だったら話は早い。この素材で、装備を作ってもらえ。小竜如きで救護院の世話になってるようじゃ、上には登れねえぞ。」


この提案は、まさに目から鱗だった。

特段上を目指している訳では無いが、悪くない。

今となってはまともな服も無い僕は、普段着に加えて装備品の調達も考えていた。


オーダーメイドか。これは、胸が高鳴る。

男の子はドラゴンも好きだが、オーダーメイドも大好きだ。

ましてや、ドラゴン素材のオーダーメイド。堪らない。


「助言、ありがとうございます。」


「いいってことよ。他の素材は全部買い取る。15万ドラクだ。かなり良い値だと思うぜ。薬の原料になる小竜の内臓が新鮮で、状態の良いものだったからな。」


良かった。ある程度余裕が出来そうだ。これで宿に泊まれる。


金もないのに半強制的な小竜討伐のせいで、森暮らしをしていたからな。


流石に一度、領主の屋敷や救護院のような暮らしをしてしまうと、野宿は辛い。

滝壺でさえ小屋で暮らすことが出来ていた。


そうと決まれば早速宿を取らねば。

そして鍛冶のデラさんの所に行こう。そしたら、あれだな。手土産だな。


ナイフの件ではとても助かった。命を拾ったとも言える。

見習い少女エレロちゃんに、お菓子でも持っていこう。


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広場で、クッキーのような焼き菓子を買う。

綺麗な包装の五個入りだ。値段は1500ドラク。


高いよ…。やはり砂糖はそれなりに貴重らしく、このような金額になるようだ。

自分用にも買ったが、味はかなり良かった。


この世界に来て初めての甘味だ。それはそれは美味しかった。

ウィスに一枚取られてしまったのは残念だ。

猫って砂糖良いんだっけか。とても嬉しそうだったからいいか。


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宿はギルドに近い、大衆的な場所にした。

一ヶ月、夕食付で五万ドラクだ。大変リーズナブルな価格が決め手だ。

体を拭く用のお湯が一日に桶一杯分、無料で貰えるのも嬉しい。


川の冷水に震えなくてもいいことは、精神的に随分楽だ。

でもいつか生活に余裕が出れば、風呂に入りたいなあ。

僕は日本人だ。やっぱり風呂が恋しい。


しかしこんな貧乏生活でも、楽しいものだ。

ウィスが居て、親切な街の人々。成長を実感出来る世界。


命の奪い合いはあれど、最高だ。













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