第30話 救護院
礼拝を終え、神父に救護院へと案内される。
それは教会の離れにあった。
教会よりも広めに作られた平屋。辺りには綺麗に切り揃えられた芝生が広がる。
家屋には新鮮な空気を運ぶため、窓や扉は開かれている。
良い場所だと思った。
街の中とは思えないほど自然と調和した風景は、心が和む。
少し眺めていると、奥から修道女が出てきた。
修道服にすっぽりと頭を包み、髪の色は伺い知れない。
しかし困り眉と、青い瞳は優しい顔立ちに見えた。
「ようこそいらっしゃいました。怪我の治療ですね。私がお手伝いします。」
にこやかに微笑む姿は、聖女のように見えた。
ウィスを見ると、控えめに手を振っていた。
僕は中に入れてもらい、ベットを一つ貸し与えられた。
周りは白いカーテンで囲まれたベットが十つほどある。
差し込む日の光と風に揺れるカーテンは心を休ませた。
ベットに座るように言われ、患部は腕と肋骨であることを伝える。
「分かりました。そうなると二日程、掛かるかもしれません。よろしいですか?」
「ええ、勿論です。よろしくお願いいたします。」
修道女は僕の腕を優しく触る。
いつかダスカ先生にしてもらったように、暖かい光が僕の腕を包む。
彼女の額に汗が垂れる。
想像より、大変なことなのだろう。本当にありがたい。
少しずつ痛みは引いていく。
折れた腕を無理矢理治していることからだろうか、パキパキと変な音が鳴る。
彼女は大きく息を吐いた。
「…今日は、ここまでです。明日、肋骨と念のために腕も治療しますね。」
「ありがとうございます。本当に、助かりました。」
「いえ。これも神の思し召しです。」
そう言って彼女は下がっていった。
腕をさする。
これは驚いた。相当な複雑骨折のはずだった。
今ではしっかりと骨が通っているように感じる。痛みもかなり引いた。
ベットで横になり考える。
治療費、いくらなのかなあ。いつ払えばいいのかなあ。
メトゥリタさんの口ぶりから、足りないということはないだろうが。
すると、横のベットから声が聞こえる。
カーテンで遮られており、シルエットだけの姿だ。
「よう。その様子じゃあ、ここは初めてだな?」
調子のいい、渋い男の声だ。
「ええ。何か、不手際がありましたかね?」
「ああ。不手際も不手際だな。治療が終われば、金を払わなきゃなんねえ。暗黙の了解だな。」
やっぱり、そのタイミングか。教会の性質上、当たり前かも知れないが催促がなかった。渡しそびれてしまった。
「聞く限り、明日もあるそうだな。その時にまとめて払いな。だが一度ずつ払うってのが、常識だ。」
彼は親切に教えてくれる。
「親切に、ありがとうございます。それと相場は、どれくらいなんですかね。」
「そうだなあ。骨折だろ?5万も払えば問題はねえよ。大したことじゃない。」
それならよかった。足りそうだ。
「小僧、冒険者だな?この老いぼれに、その怪我の武勇伝を聞かせてくれよ。」
僕は親切のお礼に、顔も知らない彼に話をした。
蜂に襲われたこと。小竜の討伐。話は弾み、ウィスとの出会いまで。
当の本人である子猫は、僕の隣でスヤスヤと寝ていた。
「そうかそうか!黒雷蜂の毒を使ったか!そりゃあ賢いことだ!」
機嫌よさげに彼は話を聞いていた。
あの蜂は、黒雷蜂というらしい。雷なんか出した覚えはないが。
「いやあ、面白い話を聞かせてもらった。小僧、名はなんと言う?」
そう言えば、お互い名も名乗っていなかったな。
「僕は、アルと言います。」
「アルか。良い名だな。覚えておこう。」
そう言うと、シルエットは立ち上がった。
「では、儂は帰る。ゆっくりと休め!」
名前も言わず、彼は帰っていった。
一体、誰なんだろう。
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それから少しして、食事が来た。
パンと野菜のスープというような質素なものだったが、頂けるだけでありがたい。
それに文明を感じる食事というのは、あまりとっていない。
森で過ごすことが多かったため、焼いた肉と木の実ばかりだったから。
だからとても美味しかった。
お礼を告げ、治療費も含めた2万ドラクを渡す。
そして3万ドラクを明日渡す予定だ。
少し暇になってしまったな。
久しぶりにはなってしまったが、ステータスでも確認することにしよう。
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名:アル〈21〉
Lv:9→15
【技能】【習熟度】
格闘術:4
剣術:3
短刀術:2→4
威圧:1
索敵:2→4
隠密:3→4
罠術:1→4
New 暗殺術:1
New 毒耐性:2
【魔法】
固定魔法:4→6
魔力操作:3→5
魔力自然回復:3→5
【加護】
アルギュロスの願い
【従魔】
ウィステリア Lv:7→10
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目に見えて上昇している。
これは嬉しい。戦闘で使っていないもの以外、軒並み2ずつ上がっている。
罠術は3上がっている。卑怯な戦い方ばかりだったからな。暗殺術が付いたのも、それが理由だろう。
毒耐性が付いたのも嬉しい。意識して上げていきたいと思う。
そんなことをしていると、眠気が訪れる。
そして夜が明け、また治療をしてもらう。
屋根がある部屋で休めることは素晴らしいが、そろそろ出なければ。
神父と修道女に深くお礼をし、ギルドへと戻ることにした。
脇腹を、治してもらった腕で撫でる。
違和感も無い。
この世界は不思議だ。
あのような怪我が、こんなに早く治るなんて。
ルクーダさんの所に、素材を売りに行こう。
査定が楽しみだ。
機嫌良く、一歩を踏み出した。
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