第23話 ルクーダ

受付嬢の言う通りに、右の渡り廊下を進んでいく。


大きな魔物を運ぶためか、かなりの広さを取っている通路であった。


目の前にはカウンターがあり、大きな老人が頬杖を付いていた。

まるで熊のようだった。耳が頭の上に付いており、黒く丸みを帯びた鼻、体中が茶色の毛で覆われている。


というか、熊だった。熊の獣人。


「獣人が、珍しいか?新入り。」


不機嫌そうに声を掛けられる。

思ったより、ジロジロと見てしまったようだ。

慌てて弁明する。


「いえ。僕の先生も、獣人でした。懐かしくて。」


懐かしいというのは嘘だ。それほど時は経っていない。


「成程な。それで。何を買い取る?」


少し笑ってくれた。機嫌は戻ったようだ。


「ええと、まず。僕はアルと言います。よろしくお願いします。それと、まだギルドに登録も出来ていません。」


そう言って、先程書いてもらった紙を見せる。


『この子の面倒を見てっやってくれ。メトゥリタ』


こう書いてあった。


「世間知らずのお坊ちゃんって訳だ。まあいい。その魔法鞄から素材を出しな。」


凄いな。小馬鹿にされたのは水に流す。僕の鞄が魔法鞄であるということを見抜いている。何の変哲もないものなのに。何か特徴のようなものがあるのだろうか。


僕はカウンターの上に、ゴブリンやウルフ、トカゲやオークの魔石を出す。

小まめに採集していたものだ。それと、ウルフやオークの牙も。

数はかなりのものとなっている。テーブルの上に、小さな山が出来るくらいだ。


「ほう。」


少し感心したように彼は言葉を漏らす。


「まずは魔石だな。屑のようなものは多いが、帯電蜥蜴エレキリザード豚鬼オークのものは良いな。それなりの値が付く。」


手の上で転がしながら話を続ける。


森狼フォレストウルフの牙も少しなら需要はある。オークの牙は使えないがな。これは脆いんだ。」


よかった。少しはお金が手に入りそうだ。自分のやってきたことが評価されるのは嬉しいものだ。


「おい、魔石を持っているなら、素材はないのか。そうだなあ。ウルフの毛皮、リザードの皮、オークの肉や睾丸なんかがあると嬉しいんだが。」


僕はカウンター横の台に、素材を取り出していく。睾丸は取っていないが。


「うーん。物は良いんだが、処理がなあ。この毛皮や皮なんて、近所のガキがやった方がマシだぞ。肉はいいがな。劣化が少ない。」


やはり正しい方法を知らない状態での処理は碌な事にならない。


「ですよね。それなら、素体丸ごとなら少しお出しすることが出来ます。」


「そっちの方がいいな。解体料は頂くが、これよりは利益が出るだろう。後ろに置いといてくれや。」


僕はリザードを三体、ウルフを七体、オークを一体置いていった。


「おいおい、どんだけ入ってるんだ。駆け出しが持つような鞄じゃねえだろ。」


やはりこう言われた。推測は出来たが、おかしい容量をしているんだろう。

ダスカ先生は世話焼きだ。まだ多くの素材が入っているのだから。


「よし。取り敢えず魔石分はすぐ出せる。それで登録でもしてくるといい。」


そういうとカウンターに硬貨が並べられた。

数えてみると、大きな銀貨一枚、銀貨十五枚、大きな銅貨が五十枚あった。


「締めて3万ドラクだ。色は付いてないが、正規の金額だな。」


出た。ファンタジー通貨。テンションが上がる。

貨幣価値も知らない今だが、これは嬉しいものだ。

ドラクというのが単位なのか。間違えて、「円」と言わないように気を付けなけば。

推測するに大銀貨が1万。銀貨が1000、大銅貨が100ドラクと考えれば辻褄が合う。

1ドラクにどれ程の価値があるかは分からないが。


「小さな袋ってありませんかね。入れておきたくて。」

「まあ、あるにはあるが。100ドラクでいいぞ。」


大銅貨と銀貨を一枚ずつ出す。


「銀貨はチップです。ご親切にありがとうございました。」


彼は口角を上げ、小さな麻袋を渡す。


「毎度。ちと少ないが、その気持ちが大切って訳だ。ありがとよ。俺はルクーダだ。メトゥリタに宜しくな。査定が終わり次第特別に届けてやるよ。」


_____________________________


僕は少し懐を温め、先程の受付へと戻る。

あの女性は、メトゥリタというのか。


受付では、またも一窓口だけガラリとしていた。

メトゥリタさんは僕を見つけると、気だるげにひらひらと手を振る。

急いで駆け寄る。


「助かりました。相場も分からないので、少ないかもしれないですが。」


そう言うと僕は、先程の大銀貨を差し出す。

彼女は嬉しそうに、懐へしまう。


「太っ腹だねえ。気合を入れて、ご案内させてもらうよ。」


彼女は袖を捲ると、話し出した。


____________________________


「ここは冒険者ギルド。兵士にもなれないようなゴロツキが、仕事にありつくための組織さ。依頼は魔物の討伐や護衛、採集や日雇い労働など多岐に渡るね。坊やなら庭の草むしりなんておすすめだよ。」


あからさまに挑発される。

まあこの人がそういう性格なんだろう。


「基本的にはそこの掲示板から依頼書を剥ぎ取って、受付に持って来る。そうやって仕事を受けるという訳さ。剥ぎ取るのは依頼の重複を防ぐため。」


成程。それなりに理に適っている。


「ただ、常設依頼と書いてあるものは剥ぎ取らない。これは領が駆除したい魔物が中心だね。討伐証明部位を受付に提示するか、素材を解体所に持って行っておくれ。」


それは良い。僕の狩ってきた魔物に、常設依頼があるといいけれど。


「依頼が完了したら、依頼者がいる場合はサインを。その以外なら書いてある方式に従って受付に提示して。そこで報酬を受け取れるよ。二割は仲介料として頂くけれどね。」


仲介料としては破格ではないだろうか。


「これでご納得いただけたなら次は登録だね。登録料は5万ドラクだよ。少々高いけれど払える?」


全く足りていない。これは参った。


「どうせ持っていないんだろう?仕方の無い子だね。支払いは後でいいから、先に済ませちゃうよ。」


チップという名の賄賂が効いているからか、遥かに融通が利いた。






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