第24話 白鷹



「後は名前と役割、得意分野を確認してお終いさ。簡単なものだろう?」


口頭で伝えていく。後半二つはパーティーを組む時に必要になるのだろう。

僕は使う魔法の特殊さから、ソロで活動しようとしている。

どうせ見られることも無いのだから、適当でいい。


「名はアル、姓はありません。前衛、剣です。」


彼女は少しの疑いと興味を込めた目で僕を見る。


「まあいいさ。そして、冒険者には等級がある。十から零まで、功績を積むほど番号が小さくなる。昇級はギルド独自の審査で決まるわ。試験もあるのよ。最初は皆、十等級から始まるからね。ちなみに。」


そう言うと、僕の後ろに、あるパーティーが並んでいることに気が付いた。


金髪の爽やかな青年と、盾を持った大柄で威圧感のある男。

薄い緑のショートカットの女と、ローブを身に纏った女。


さらに観察すると、各々の装備には鷹の紋章が刻まれている。

使い込まれてはいるが、よく整備されている武器と佇まいから、強者の匂いが立ち込める。


「ここは三等級以上専用の窓口。後ろの彼らのようにね。」


メトゥリタさんはからかうように僕を見る。

だから空いてたのか…。


僕は急いで立ち去りたいが、彼女はいたずらにわざとゆっくり説明する。


「さあアル君。これで登録は完了。君は今日から十等級の冒険者。依頼ごとに推奨の等級はあるけれど、制限はないから好きに受けるといいよ。これが君のギルドカードさ。お金は後で持って来るように。」


「十」と書かれた鉄板を渡されると、後ろから声が聞こえる。


「この窓口で登録とは、胆が据わってる野郎だな。」

「まあ、いいじゃないか。おおよそ、知らなかったんだろう。」

「ねえ、あの猫ちゃん、すっごい可愛い!」

「勝手に…触っちゃ…駄目…。」


僕はそそくさとその場から脱出しようとするが、ウィスはそれを許してはくれなかった。


可愛いという言葉を聞き逃さなかったようだ。

ショートカットの斥候のような恰好をした女にトコトコと近づいていく。


「きゃあ~!本当にかわいい~!どうしたの?撫でてほしいの?」


彼女はまさに猫撫で声を上げると、僕に、期待するような眼差しを向ける。

僕は観念して、許可を出す。


「どうぞ、撫でてやってください。」


「うわ~!ありがと~!」


ウィスは揉みくちゃにされながらも、嬉しそうだ。

それを見た金髪の青年が、困ったようにして話しかけてきた。


「いやあ、ごめんね。彼女、可愛いものに目が無くて。」


非常に整った顔つきをしている。

イケメンスマイルに、僕はタジタジだ。


「紹介が遅れたね。僕はロアス。このパーティー「白鷹」のリーダーをしている。一応、三等級のみで構成されているよ。」


「ご丁寧にどうも、ありがとうございます。僕はアルと言います。今十等級になったばかりの、駆け出しです。」


彼は品定めをするように、僕を見る。


「うーん。君なら七等級くらいまでならすぐだと思うよ。子猫と遊ばせてくれた礼だ。困ったことが有れば、内容次第で助けになるよ。」


「そうかあ?こんなひょろっちい奴、すぐ死ぬのが関の山だろ?」


大柄な男は言う。


「ひど~い!でも弱いなら弱いなりに、この子をちゃんと守ってよね!」


随分ずけずけと言ってくるな。まあいいか。遥かに格上なのは変わりない。

するといつの間にか、僕の後ろに回り込んでいたローブの女が、耳元で囁く。


「私も…触りたい…。」


びっくりした。ローブで隠れていた顔は、とても美しかった。

尖った長い耳が見えたのは、気のせいだろうか。

僕は彼女にも許可を出すと、暫しの間それを眺めていた。


その間に、ロアスは僕に質問攻めをしていた。

どこから来ただの、どの武器を使うだの。


気まずい。周りの視線ももう集めきっている。

大柄な男は不機嫌そうに、バーへと向かっていた。


周りの反応と、彼らの話からするに、「白鷹」はかなりの実力者らしい。


その「白鷹」と仲良さげに話している僕には、警戒や懐疑、困惑の視線が囲んでいた。


悪目立ちしてしまったな。そう思っていると、ウィスが帰ってきた。

もう飽きてしまったらしい。人騒がせなことだ。


「白鷹」の女子達は、名残惜しそうにしている。

が、人馴れしていない僕には辛い環境だったため、そそくさと立ち去ろうとする。


「すいません、僕はここで。また、機会があれば、ご挨拶させてもらいます。」


一応一言を添えて、メトゥリタさんにも一礼をする。


すると、解体所の方から熊獣人のルクーダさんが歩いて来た。


「おーい!アル!精算が終わったぞ!」


機嫌よさげに、彼は続ける。


「いやあ、それなりの額にはなったぞ。丸ごと素材を持ってきたのがよかったな。締めて8万ドラクだ。そこから解体料を引いて、7万5千だな。」


よかった。これで登録料が払える。

1000ドラクを気持ちとしてルクーダさんへ突き返す。

白鷹の皆さん、どっか行かないかなあ。


「ありがとうな。二回も心づけを渡す奴なんて、そうはいない。お礼に良いことを教えてやる。」


彼は嬉しそうに顎を撫でると、話し出した。


「ギルドの裏手には訓練場が有ってな。そこでは剣術なんかを教えてる奴がいる。気に入った奴しか門下にはなれないが、幸いそいつは俺の弟だ。口添えしといてやるから、気が向いたら行ってみるといい。」


これはありがたい情報だ。何かを成すためには教えを乞うのがいい。

ダスカ先生のことから、身に染みて分かっていることだ。


「ありがとうございます。必ず近いうちに伺います。」

「そうかそうか。依頼は、何を受けるつもりなんだ?」

「身の丈に合ったものがあれば、と考えています。」

「それなら、一つサイクロプスなんてどうだ?あいつらはドラゴンと仲が悪くてな。戦いの後、弱っている奴なら楽勝だろ?」


僕のことを買い被っているらしい。一度見たことはあるが、あんなものに勝てるはずがない。


「はは、考えておきます。」


「ふうん。8万ドラクも。見込は正しかったようね。」


メトゥリタさんは言った。
















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