第25話 試験と鍛冶師
すぐ横の依頼書を見る。
「フォレストウルフ討伐」「迷い猫探し」「ゴブリンの巣掃討」「土木作業員募集」「荷馬車警護」など、それは多岐に渡った。
「それより、いい依頼はあるわよ。」
メトゥリタさんは口を挟んでくる。
そんなことよりもだ。
「いやあ。この窓口、僕が使っていいんですかね。普通に、並びますけど。」
「いいのよ。暇だし。それで、お金は?」
「ああ、はい。これを。」
懐から、5万ドラクを支払う。
「はい、丁度。登録料3万ドラクと、昇格試験料2万ドラクね。」
え?よく聞こえなかった。聞こえてはいたが、理解出来なかった。
「昇格?試験?」
「そうよ。貴方、多分もう七級に上がれるわ。推薦者は、ルクーダと私ね。」
「いや、あの~。」
「七級への昇格だから、それに対応した依頼の達成が条件よ。そうなると。」
無茶苦茶言っている。彼女は引き出しから、紙を取り出す。
「
トントン拍子に話が進む。僕の介入する余地はない。
どうやらここのギルドの人は、僕を買い被っているらしい。
断りを入れようとするが。
「いや、あの~。」
「駄目よ。これは決定事項。ギルドとしても、使える人材の育成は急務なの。」
これは駄目な奴らしい。
「僕達も助かるよ。早く上がってくるといい。」
後ろで聞いていた「白鷹」のロアスさんは言う。
大柄な男の人は待ち飽きたようで、バーへ行ったようだ。
「5万ドラクもすぐに集められるくらいなんだから、それなりの魔物を狩ってきているんでしょう?素の能力は高く見えないけれど、何か隠し玉があるのかしら?」
うーむ。まさかこんなことになるとは。レッサーと付いていても、竜は竜。
僕に勝てるか。
「やるだけやってみますが、危なくなったら、すぐに引き返しますからね。」
随分と逃げ腰な啖呵を切る。ウィスは嬉しそうに鳴いていた。
「小竜は、勿論バトス大森林に生息しているわ。索敵能力も審査の範囲だから、詳しくは話せないけれど。そう深くにはいないから安心して。」
ロアスさんも頷く。
そうと決まれば準備だ。
僕の能力では、正面突破は厳しそうだ。
「この辺りで、いい武器屋ってありますかね?」
僕は情報を聞き、足早にギルドを立ち去る。
メトゥリタさんは変わらず、気だるげに手を振っていた。
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ギルドから広場へ引き返す道の途中、裏通りに入った所に、その店はあるという。
東の路地の五番目に入ってちょっと行った所。金槌の叩く音が目印。
段々と音が大きくなり、炭と金属の匂いが立ち込める。
武器屋というより工房という表現が正しいような店がそこにはあった。
どちらかというと店は併設されており、人気はなかった。
錆付いたドアを開ける。
所狭しと武器が陳列されており、男心をくすぐられる内装だった。
埃っぽいのもまた、魅力であった。
「すいません。武器が欲しいんですが。」
カウンターには人影は見えない。しかし声が聞こえた。
「はいはーい。お客さんですね!」
目を凝らしても、誰かいるように見えない。
不思議に思っていると、台からひょっこりと、頭が飛び出た。
「ごめんなさいね!びっくりしました?」
そばかすがキュートな、オレンジに近い赤髪の少女がそこにはいた。
七歳くらいだろうか。頬は煤で汚れているが、笑顔は眩しい。オーバーオールのような服を着ており、パンパンのポケットには、何が入っているかは分からない。
「へへ。何がご入用ですか?」
「ナイフがあれば。出来るだけ本数をと。5万ドラクで買えるだけの。」
僕はほぼ全財産で、これを用意することにしていた。
対小竜のためには、絶対に必要になる。
僕の戦法は、待ち伏せが主体。
正面切って戦うには、まだ実力が足りない。
「数が欲しいとなると、質が落ちちゃいますね。うちにあるナイフは、最低でも5千ドラクはします。それを十本でいいですか?」
少し心許ないが、今は仕方ないだろう。
しかし、幼いながらしっかりとした少女だ。
「ああ、それで構いません。」
少女は奥へ戻っていき、木箱に入ったナイフを持ち出す。
先程から、ウィスをちらちらと見ている。
触りたくなっちゃうよなあ。分かる。
微笑ましく思いながら、そのうちの一本を手に取る。
サバイバルナイフほどの大きさだ。刃の光沢と鋭さから、それなりの切れ味が伺える。持ち手は装飾もなくシンプルで、使い勝手が良さそうに見えた。
「この値段だと、返しも装飾も付けられませんが、物は良いですよ!」
少女は自慢げに話す。すると、店の奥から男が現れた。
身長と年齢は僕と同じくらい。若く見えたが、腕の筋肉や深く刻まれた眉間の皺が、苦労を伺わせた。
男はおもむろに、少女の頭に拳骨を落とした。
鈍い音が響く。
「何が物は良いだボケ!見習いのお前が作ったガラクタを売るなと言っているだろう!」
え?このナイフは、彼女が作ったものなのか?
困惑する僕を尻目に、彼は話しかけてくる。
「申し訳ねえお客さん。うちの馬鹿が粗悪品を売っちまって。」
「粗悪品じゃない!」
「うるせえ!こんななまくらが何百本あったところで、5万ドラクには及ばねえよ!」
そうなの?僕には十分、出来の良いものに見えたが。
「悪いがお客さん。うちはその値段じゃあ、これ一本が限界だ。迷惑料込で十分安くしてある。」
彼が懐から取り出したのは、先程の話を信じさせるに十分な、立派なナイフだった。
先のナイフより、少し刃渡りは長く、刀身は静かに青く発光している。
寸分の狂いなく等間隔に刻まれた返しは、どんな獲物にも深手を与えるだろう。
波の様に浮かぶ刃文と、刻まれた「デラ」の文字。彼の名前だろうか。
「これは、素晴らしいですね…。」
「そうでしょ!師匠の腕は世界一だもん!」
少女は、年相応にはしゃいで見せた。
彼は照れ臭そうにして、それには拳骨を飛ばさなかった。
「おう、気に入ってもらったなら何よりだ。俺はデラだ。しがない鍛冶師をやってる。」
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