第33.5話 閑話 新たな先生
正直僕は、何と言えばいいか分からなかった。
本気で門下に入りたい訳でも無い。剣の道を極めるつもりも無い。
剣で食べていきたいという訳でも無い。
使えたら便利、本音はそれくらいだろう。
強くなりたい?それもそうだ。
ただ、剣でなければいけない理由も無い。
生きるため?かもしれない。
ただそれなら、冒険者など辞めて普通の仕事をすればいい。
随分軽い気持ちだったことに気が付いた。
何も言えないと思った。理由なんて無いと。
すると勝手に、言葉が零れていた。
何か言わないといけないことからのプレッシャーか、頭の中を整理するためかは、分からなかった。
「正直、分かりません。」
ポツリポツリと話し出す。
「僕は今、恩人に会うという目標しかありません。そのために強くなる必要があります。」
「だから僕は、魔物を殺しています。自分のエゴで。」
サイフォスさんは静かに聞いていた。
「その方法の一つに、剣があります。素人紛いの剣で、殺しています。」
「でもそれじゃあ、敬意が足りないといつも、思っています。」
結論が、自分でも予測しない方向へ向かう。
でも決して、嘘じゃなかった。
「彼らに向き合うための、技が欲しい。強さが欲しいです。」
自分が思ってもいない、本音が溢れていた。
そして覚悟が、固まった。
やるなら、とことんやろう。彼の下で、力を付けよう。
彼は深く頷いた。
「分かった。君を門下へと迎え入れるよ。」
「よろしくお願い、します。」
僕はこの世界で二人目の、先生が出来た。
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「まず、僕が君に教えるのは、剣に限らない。」
「君の目的にも、その方がいいだろうからね。」
そんなことを言われた。
覚悟は十分に出来ていたが、思ったより大事になりそうだ。
「僕が修めているのは、トゥリエナ流戦闘法だ。」
それから僕は、説明を受けた。
トゥリエナ流戦闘法は、彼の家に伝わる戦闘術である。
主に武器術、格闘術、兵法の三つからなるそれは、世界でも有数の流派らしい。
流派には冒険者のような等級が有り、三等級以上からが師範を名乗ることが出来る。
彼、サイフォスは武器術が二等級、他が三等級である。
いや、滅茶苦茶強い人だった。
何故こんな辺境のギルドに滞在しているか、全く分からない。
何はともあれ、僕は現状で考え得る限り最高の先生を得た。
その代わりこれからの自由時間は大幅に減ることになった。
これから毎日修練が有り、自由時間は週に一度、半日だけだという。
門下なら当然だと言われたが、思っていたのとは大幅に違った。
急ぐ旅ではないが、まさかこんなことになるとは。
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修練は明日からだと言われ、宿に帰る。
その前にルクーダさんに報告をしにいくことにした。
事の顛末を彼に話すと、冷や汗をかいていた。
「お前それは…。随分気に入られたな…。大変なことになるぞ。」
ポカンとしていると彼は続けた。
「あいつはお前を内弟子にしたんだと思う。生活費は出してもらえるだろうが、認められるまで自由はねえぞ。」
それは恐ろしいことだった。
「朝から晩まで修行だ。期限や自由なんて無い。これは、悪いことをしたな…。」
絶望した顔で、彼は僕を見る。
「すまんかった。まさかここまで気に入られるとは思ってもみなかった。」
彼はバツの悪そうな顔をしている。
しかし実の所、僕はそこまで嫌ではない。
想定とは随分違ったが、覚悟は決めている。
行けるところまで、行くつもりだ。
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