第33話 サイフォス

装備完成を待つまでの一週間は、討伐依頼を主にこなしていった。


一つは、目先の金を稼ぐため。

もう一つは、固定魔法の上達だ。


黒雷蜂との戦闘で、僕は動物を「固定」することが可能になった。

しかし極限状態で、尚且つ小さい獲物だったことが大きい。


この感覚を早いうちに定着させ、より大きく、より自由に使うことを目標にする。


今までは出来なかったことが、あの時は出来た。

その違いは何か。


それは、「恐怖」だったと思う。


ウィスが襲われて本当に怖かった。

全滅してしまうと思った。


だから、よく”見た”。

目の前の敵の姿、形、動きを細部まで。

明確に死のイメージを掴んだ。


それが、成功の要因だと考えた。


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この固定魔法の練習には、ウィスの成長が力になった。


彼女の風魔法は、殺傷力を増していた。

小竜戦で、思う所があったのだろうか。明らかに、威力が上がっている。

ゴブリンやウルフ。オークにまで致命傷を与える程に成長していた。


そして動きの精彩も増していた。

俊敏性、回避力ともに大きく成長し、相手からの一撃を喰らうこともなかった。


だから戦闘は彼女に任せ、僕は固定魔法での妨害に注力することが出来た。


結果は上々。

日を増すごとに、相手を「固定」するイメージが膨らんでいく。


どの方向に、どういう速度で、どのような動きをするか。

先読みをし、形を捉え、固定する。


三日が過ぎた時には、ゴブリンならば全体を固定することが出来た。


しかしウルフを固定するには骨が折れた。

動きが速く、捉え辛い。

人型ではないため、動作のイメージも掴みにくい。

未だに、成功率は五分だった。


オークはその大きさから、固定することはついに出来なかった。


それでも大きな自信は付いた。

成功してしまえば、即死に近い効果を得られる魔法。

この武器は、磨いていく程強大になる。


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小物を狩り続け、五日目。

大きな怪我も無く、ついに目標の金額に到達した。


オークをメインに据え活動したからか、20万ドラクを貯めることが出来た。

これで手持ちと加え35万ドラク。装備を新調してもお釣りが来る金額だ。


二日間ではあるが、自由時間が出来た。

何をしようかと考えたが、観光という気分では無い。


その時、ルクーダさんから言われたことを思い出した。


「「ギルドの裏手には訓練場が有ってな。そこでは剣術なんかを教えてる奴がいる。気に入った奴しか門下にはなれないが、幸いそいつは俺の弟だ。口添えしといてやるから、気が向いたら行ってみるといい。」」


行ってみるか。

僕のステータスの中で、剣術スキルはノビが悪い。

大体、武器の扱いなんて今まで習ってもこなかった。

適当にある物を振り回しているだけだ。


しかし使ってみて思うのは、剣というのは取り回しがいい。

固定魔法が伸びきっていない今、第二の刃を持つべきだ。


僕は念のため、デラさんの所で土産を買い、訓練場に向かうことにした。


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そこは、円形の闘技場のようになっていた。

円の四方には通路があり、様々な種類の武器がある棚が併設されてある。


昼頃だと冒険者は仕事に出ているからか、人気は少ない。

しかし中心では、一人の男が素振りをしていた。

剣閃は鋭く、まさに空を斬っているといった様子だった。


彼の上半身は裸だが、毛並みのいい白と茶色の体毛が粗雑さを打ち消している。

下は紺色の道着のようなものを着ていて、武人然としている。


多分あの人が、ルクーダさんの弟だろう。

ルクーダさんが太めの熊獣人だとしたら、彼は細めの熊獣人。

もはや熊というよりかは、アナグマに似た姿だ。

ルクーダさんとはまた違った、スタイリッシュな格好良さがある。


素振りが終わったようで、僕を見ると声を掛けた。


「おお、その白い髪。君がアルか。兄から聞いているよ。」


剣術の師範のイメージとは違った、爽やかな笑顔を見せる。


「こんにちは。ルクーダさんから紹介して頂き、遅くなりましたがご挨拶に。」


そう言って僕は、デラさんの所で買った砥石を差し出す。

プレゼントは、もらって不快になることは少ないだろう。

何が喜ぶか分からなかったため、このような物にはなったが。


「これはこれはご丁寧に。僕はサイフォス。よろしく。」


握手の手を差し出される。

かなり握力は強いが、痛みを感じる程度では無い。


「うん、体はそれなりに丈夫そうだね。それで手土産なんて持って、何か用があるのかい?」


彼は気軽に笑って言った。


「ええ、剣を教わりたいと思っています。」


彼の目が真剣なものに変わる。


「それは、どうして?」







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