門下として
第34話 外周
それからの日々はまさに過酷そのものだった。
_______________________
一日目
まずは限界まで、街を囲む城壁の周りを走らされた。
森暮らしで体力には自信があったため、得意げに走っていた。
二~三時間で止められるだろうと。
しかし全く止められない。
日が昇ったころから、高くなるまで。
もう六時間程だろうか。まるで止められる気配が無い。
その間、サイフォス先生は訓練場の中心で座っていた。
たまに立ち上がったかと思うと、何やらウィスに稽古をつけているようだ。
風魔法を打たせ、それを避ける。少しでも掠るまで、それは終わらない。
最初はウィスも遠慮しながら打ち込んでいたが、少し経つと彼女はもうムキになっていた。どれだけ打っても当たらないのだ。
威力も速度も手数も、本気で獲物を狩る時のそれに変わっている。
結局最後まで当たる事なくへばっていたが、少し休むとまた始めていた。
僕より辛いことをしているのではないか。
それにしても、ウィスのことも面倒を見てくれるのは非常にありがたかった。
修練の辛さより、彼女が暇しないかが気がかりだったから。
結局その日は五時間程走った所で倒れた。
走り終わって言われた言葉に、僕はドン引きすることになった。
「思ったより体力はあるようだね。そうしたらまず、その二倍くらい走れるようにしようか。」
倒れ込みながらそんなことが聞こえた。
僕は気を失いそうになった。あり得ない。二倍って。十時間じゃないか。
そんなの、人間の体力では不可能だ。大体、五時間走り続けるのもおかしい。
その時点で、大分人間辞めかけているだろうに。自分だって、驚いていたのに。
_______________________
それから、僕は先生の演武を見ることになった。
休憩を兼ねた勉強だそうだ。
この、踊りにも似た演武は、流派の型らしい。
二十分程の連続した動きが基本としてあり、その中から状況に応じて抜き出して戦うとのことだった。
時間にしてはそれほどの短いものだ。
その動き全てから無駄を排除した、必要最小限の機能美の塊。
それがトゥリエナ流戦闘術の剣術らしい。
この動きが、武器に応じてそれぞれあるとのこと。
なんという幅の広さだろうか。
学ぶには一生懸けても足らないかもしれない。
滴る汗を拭いながら、先生の動きに注目する。
剣先が見えない程に速く走り、一切のブレ無しにその場に止まる。
足運びやその他の動作は滑らかで、繋ぎ目が全く分からない。
これだけでお金を取れるくらいには、美しく見事な演武だった。
「ふう。こんなものかな。取り敢えず、これが剣の型だよ。」
彼は一息ついて言う。
「まずは最初の動き。「”初式”
休憩もそこそこに、僕は技の訓練に入った。
すぐに技を教えてもらえることはありがたいが、もう少し休ませて欲しい。
先生の素振りを、見様見真似で模倣する。
まるで出来ている気がしない。
先生の剣を振る音が「ビュッ!」だとすれば、僕の音は「ブ~~ン」だ。
要するに、かなり遅い。
何なら、先生の剣は少しの赤い光を発しているようにも見える。
少し剣を振っていると、先生が僕の体の位置を修正する。
手や足、腰とその場所は多岐に渡る。
少しは冴えが良くなってはいるが、まるでなっていない。
それを見た先生は、その場から立ち去った。
え?見放された?
なんて思っていると、武器棚からあるものを取り出した。
それは剣というにはあまりにも大きすぎた。
大きく、分厚く、重く。そして大雑把すぎた。
それはまさに鉄塊だった。
とベルセ〇クのドラ〇ン殺しのような大きな剣だった。
全長は僕の身長程あり、持てばよろけてしまうほど重かった。
刃は既に潰れており、打撃武器と言った方が適切だった。
「取り敢えず、これ、振れるようになろうか。」
あまりの無理難題を提示する笑顔に、僕は寒気がしたのを覚えている。
_______________________
それから僕は、走り、剣を振った。
僕の生活にはもうそれしか無くなった。
身体的に辛いのは勿論だが、やはり辛いのは精神。
毎日が同じ作業の繰り返し。正直やってられない。
そして一向に体は慣れることは無い。
筋肉が付くメカニズムである「超回復」などまるで無視した、過密スケジュールだ。
本来ならば、筋力増強のためには、トレーニングは一定の時間を置いた方がいい。
そのような理論もこの世界には無いのかと思ったが、どうやらちゃんと考えられているらしい。
その対処法とは、魔力操作である。
体の隅々まで魔力を行き渡らせる。すると、本来の速度よりも速く、肉体が回復するらしい。僕は「休憩」と称した「魔力操作」を頻繁に行うことになった。
さらに駄目押しで、僕は毎日帰りに救護院に寄ることが義務付けられた。
ありがたいことに寄付金はサイフォス先生持ちで、光魔法を掛けてもらう。
傷ついた筋肉を魔法の力で超回復させる訳だ。
ここまで来ると、先生は僕を一体何者にしたいのか分からない。
しかし力を与えて頂けるならば、ありがたく享受するべきだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます