第35話 新装備

相も変わらず、修練の日々は続く。

三日も経てば、僕がサボることが無いと思ったらしい。


「もう一人でも頑張れるよね?僕は彼女と遊びに行くね。」


サイフォス先生はウィスを連れて森に出ていった。


日が暮れ、僕が素振りをしていると彼らは帰ってくる。

傷や泥でボロボロになったウィスとは対照的に、先生には汚れ一つ無い。


最初は彼女が不憫でならなかったが、どうやらそれはそれで楽しんでいるらしい。

救護院で一緒に治療を受けながら、彼女は嬉しそうに今日の狩りの報告をしてくる。

身振り手振りで、今日の戦いの再現をする彼女は、毎日の癒しだ。


日に日に減っていく彼女の傷に喜びと焦りを感じながら、僕は今日も剣を振る。


_______________________


修練の日々で嬉しかったことと言えば、思い返せば六日目くらいだ。

その日はへとへとになりながらも、装備の約束のことを思い出した。

受け取りに指定はなかったとは思うが、日時を四日も過ぎている。

もう夜だったため、店にはデラさんが立っていた。


「おう、来たか。いつ取りに来るのかと思ってたところだ。もう出来てるぜ、って、何だってんだそんなに疲れて。」


「いやあ、サイフォス先生の所で修行をしてまして…。」


「そ、それは大変なことになったな…。そしたらこれを着るのも当分先になりそうだな…。」


彼は先生の名前を聞いて明らかに引いている。

そんなに有名だったのか…。多分あまり良くない理由で。


「と、取り敢えず装備は渡しとく。久方ぶりの自信作だ。」


そして出されたのはまさに「ドラゴンメイル」。

鎧と手甲、ブーツのフルセットだった。

胸板には、皮の皺が竜の顔のように浮かび上がっている。


全体的に丸みを帯びたシルエットではあるが、僕の体のラインに合わせ腰は絞られている。そして赤茶だった皮は加工され、炎のような赤一色に染まる。

静かな光沢のある鱗は、無骨な皮鎧に気品を漂わせている。

節々には黒いラインが走らされており、デザインにメリハリを感じさせる。

この光を飲み込む黒色は、黒雷蜂のものだろう。

裏地一面は帯電蜥蜴の素材が使用されており、肌に吸い付くように滑らかだ。


これで三十万ドラクとは。

とてもじゃないが、日本円で30万円程には見えない。

美術品としても通用する美しさだ。


「これは…。素晴らしいですね…。」


思わず口を開けたままになりそうだ。

しかしこれほど素晴らしい物なのに、訓練の日々では使う機会が無いことが悲しい。

自分の間の悪さに、落胆した。


「そう易々と壊れる代物じゃないが、修理はいつでも言ってくれ。安くしとく。」


デラさんは自慢げに鼻を擦る。

僕は水を差したくはないが、聞かなければならないことがある。


「サイズ調整って、出来ますかね?」


最低だ。オーダーメイドで作ってもらって、この言い分だ。

でも仕方ないんだ。

サイフォスブートキャンプが終わる時、僕も僕の体がどうなっているか分からない。

体は常に筋肉痛で悲鳴を上げている。

もう何度吐いたか分からない。意識も朦朧としている。


このお願いは快く聞いてくれた。

サイフォス先生のことを知った今、憐憫の気持ちの方が大きいのだろう。


「いつでも持って来い。むしろ、逞しくなってるのを楽しみにしておくわ。」


とのことだ。僕はその優しさに、胸が痛んだ。

________________________


僕は宿に帰ると、装備をもう一度着用する。


うむ。うむ。いいんじゃないか?

思わず顔がにやける。


この赤も、ダスカロス先生の髪を思い出して何だか嬉しい。

僕の白髪にも合っているんじゃないだろうか。


先生、元気にしてますか。僕は今、辛い修行をしています。

明日も早いので、もう寝なければいけません。


会いたいなあ。


鎧を脱ぐと、そのまま眠りについた。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る