第37.5話 閑話 ウィスと辺境領

最近、アルはずうっと走ってる。


つまらない。遊んでくれないなんてひどいわ。

少し前までは、そんなこと一度もなかったのに。

一緒に森で過ごしたの、懐かしいなあ。

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そういえば、アルが知らないおじさんイスキューロンに殴られた時はびっくりしたわ。

アル、倒れちゃうんだもん!

変なおっきい建物に連れ去られて、私も付いていったわ。

必死で攻撃したけど、全く効かなかった。悔しかったわ。


でもそのおじさんとアルは、仲良くなったみたい。


だすかろす?っていうアルの先生の話題で、盛り上がっていたわ。

あのおじさんはまあ、撫で方も丁寧だし、嫌いじゃないかも。


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街、っていうの?人がたくさんいて、楽しいわ!

皆私のことが可愛くて仕方ないみたい。

女の子二人組も、小さい女の子も、街の人も、私の虜よ。


ちょっと撫で方は雑だけどね!!

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そうだそうだ。

アルがずうっと走る様になったきっかけ。

怖い虫黒雷蜂と、でっかいとかげ小竜と戦ったんだった。


どっちも凄く強かった。

アルなんて刺されて倒れたり、吹き飛ばされたりで、大変そうだったわ。


その時もアルは守ってくれた。

ハチもいつもの不思議な魔法で止めてくれて、トカゲもいつの間にか倒してた。


でも私、何も出来なかった。

正直ちょっぴり、落ち込んだわ。

私、アルの足手まといじゃないかなあ。


私がそう思うのと同じように、アルもそう考えてたみたい。


今はさいふぉすって人の所で、戦いの練習をしてる。

私も、強くなりたいなあ。

そうして、アルを助けたい。


そんなことを考えてたら、さいふぉすが私を森に連れて行ってくれるみたい。


アルは走るのに忙しいみたいだし、行ってもいいかも。

私も強くなりたいもん!


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森歩きには自信があったわ。

アルよりも速く走れるし、怖い魔物の気配も分かる。


でも、さいふぉすはもっと凄い。

飛ぶように走って、とっても強い魔物をどんどん倒していく。


私、付いていくので精一杯。

自信無くすなあ。


私、まだ何も出来てない。

気配を消すのが上手い魔物、動きが素早い魔物、力が強い魔物。

さいふぉすが助けてはくれるけれど、私やられてばっかりだ。


魔物と戦うのは、やっぱり怖いし、痛い。

けれど、頑張らなきゃ。アルを助けられるように。


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戦っているうちに、少しずつ気づいたことがあるの。


攻撃を避けるのに集中すると、胸の辺りがだんだん熱くなってくる。

それとは逆に、頭は冷たく、冴えてくる。


周りの景色がゆっくり動く。

気持ちがふわふわっとなって、どんどん楽しくなってくるの。

飛ばせる風も、威力が段違いに強くなる。


それを見たさいふぉすが言ってた。


「”純化”が出来るようになったんだね。凄いね~!」


なんだかよく分からないけれど、褒められたからいいや。

これで少しは、アルの力になれるかな。


まだその”純化”の制御は難しい。

ご飯の時間にたまに出そうになるけれど、バレてないかな?









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