第44.5話 閑話 残業

目の前では、サイフォス先生とウィスが獅子奮迅の活躍をしている。

僕の動きを客観的に見たことが無いとは言え、段違いである事を肌で感じる。


先生の剣技は速く、滑らかであることは勿論、何より美しい。

トゥリエナ流剣術は、演武が礎になっている。

まるで踊っているかのように繰り出される技だが、決して華やかでは無い。

日本刀や拳銃が一種の美しさを纏うように、必要最小限まで削ぎ落とされた、究極の機能美。

そんな感想を覚えた。


そしてウィス。これが全くの予想外だった。

普段のおませさんで優雅に振舞い、可憐に甘える彼女とは、様子が違った。

一匹の餓えた獣のように、手当たり次第に喰らい付く。

体には常に鎌鼬のような風を纏い、触れるもの全てを切り裂いていた。

およそ日常生活では聞いたことが無い、敵意を剥き出しにした威嚇の声。

これがいつか見た彼女の技能「純化」なのか?正直怖いと思った。

けれどその荒々しさは同時に格好良いとも思った。

頼り切りという訳にはいかないが、一緒に旅をする以上、非常に心強いものだ。


負けていられない。そう思いながら、僕は魔物を斬る。


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「うん。強くなったね。誇らしいよ。」

先生は僕に言う。辺りは魔物の死体で一杯だ。


「いやあ、僕はウィスの成長に驚いています。少し見ないうちにここまで。」


「僕もびっくりしてるよ。彼女は素晴らしい能力を持っているね。それに何より心がいい。」


「心?」


「そう、心。君も見ただろう?あの溢れんばかりの闘争心。目を見張るものがあるね。」


そう先生が手放しで褒めると、彼女は誇らしげににゃふんと鳴く。

すぐに撫でてやりたいが、彼女の体も僕の手にも、魔物の血がべったりだ。


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「今日は最終日だし、少し無理をしようか。」


先生はそんなことを言い出す。

彼の修行を受けていた身としては、その彼が言う「無理」が恐ろしい所だ。


「見た所、君もかなり成長している。だから、初日のノルマなんて楽勝だよね。」


嫌な予感がする。参考までに言うと、現在は日が少し傾きそろそろ帰れるかなあなんて思っている所だ。討伐数は百匹程度か。


「今から百匹。数も減ってきたし、血眼になって討伐してきてね。じゃあウィスちゃん。僕たちは帰ろうか。」


めのまえが、まっくらに、なりそうだ。

少しの残業を済ませるため、剣を振るう。

無心になって戦っていると、技の術理が掴めていくような感覚がした。

こうも多数の敵と戦うことなんてそうそうない。

この残業も、先生の心遣いなのだろう。多分。


へとへとの体で、酒場にも寄らず宿舎に帰る。

ウィスはいつものように丸くなってすやすやと寝ていた。


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