第9話 もう一度強く、誓う。

背中がゴワゴワする。藁のベッドだろうか。頭がモフモフする。これは何だ。

手を伸ばす。暖かく柔らかな毛が、抵抗も無く沈み込む。上等な毛皮だ。

素晴らしい触り心地。そのまま顔を擦り付ける。

この微睡の中でもう少し過ごしていよう。


「私の尻尾はお楽しみ頂けたかな?アル君?」


一気に意識が覚醒する。


つがいでもそこまで撫でまわすものでもないのだがね。」


頬から、しゅっと尻尾を抜かれる。


「あの、すいませんでした。」

「いやいや。二日間眠っていたにしても、そこまで元気だということは、固定は成功だったということだろう。」


「本当ですか?僕としては何か変わっているというような感じは…。」


本当にそうだ。特に体が好調という訳でも、不調という訳でもにない。


「いやあ君。相当痛かったんだろう。大分変わっているよ。特に、その髪とか。」


そう言うと先生は、懐から手鏡を取り出した。


僕の髪は、雪のような純白に染まっていた。

こんな荒唐無稽なことが起こるとは。

まあ、何かを得るためには何かを失わないといけないことは理解していた。

髪の色が変わるくらい、何の問題も無いのだが…。


「これは、痛かったというより、激イタですね…。」


中二病感満載の笑えない姿になっていた。

これで西洋人風のイケメンであれば違和感も無いのだろうが、僕は違う。

三度顔を逢わせない限り覚えてもらえないような、特徴のない平々凡々の日本人顔だ。それが余計に、キツい。


そんなことよりだ。


「先生、その髪…。」


先生の綺麗な赤髪は、メッシュのように白が混じるようになっていた。


「わはは。私も相当、痛かったんだろうなあ!」


彼女は変わらず、快活に笑う。その明るい表情とは真逆に、僕の心に痛みが走った。


「なんというか、本当に、」


僕の言葉を静止するように先生は睨む。そうか。言うべきは。


「本当に、ありがとうございます。本当に、本当に。」


視界が滲む。それでも先生の照れ臭いような、苦々しい顔は見えている。


「なあに。私が君のような青年を、放っておけないだけのことだ。」

「とにかく、君は力を手にした。この魔法は強大なものだが、それに溺れることがないことを私は信じるよ。願わくばその言葉で、君のように困っている人を、救ってほしいと思う。」


僕は幸せ者だ。


「そうですね。力の限り、善く生きることを誓います。」


僕の人生のテーマを、もう一度強く、誓う。


「よし!そうと決まれば特訓だな!私もここに長居は出来ない。

君と過ごす時間は楽しいものだが、やるべき事が山積みなのでな!」


さらっと衝撃的なことを言われた。このまま一緒に行動するものだと思っていた。

それは甘えすぎか。


先生には何から何までお世話になった。

その上、これからも身を守ってくださいなど、虫のいい話だ。


少し早いが、独り立ちをすべきなのだ。


それから短い間先生の元で、僕は訓練に明け暮れた。













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