第39話 危機の訪れ
心に一抹の不安を抱えながら、修練は再開された。
「”初式”
この技は言わば初太刀。牽制や組み立てに使う小回りの利く技だ。
次に覚えるのは「”弐式”
スラッシュで振り下ろした剣を、全力で振り上げる本命の一撃だ。
基本的な原理はスラッシュと変わらない。腕と剣身に魔力を流し振り上げる。
込める力が桁違いなだけだ。
本来は二つを通しで行う技だが、練習のためブレイクのみだ。
剣を振り、手首を反す。柄を握る手、前腕の筋肉がミシミシと音を立てる。
そして振り上げ、脱力する。
腕は伸び切り、剣は頭上でピタリと止まる。
この技は一度の実践で合格点を貰えた。
これも地道な基礎トレーニングの成果だ。
スラッシュとブレイク。
二撃を連続して高速で行うことで、必殺剣に昇華する。
これが「”参式”
使ってみて思う。単純な技だが酷く厄介だと。
継ぎ目も分からない程の速さで繰り出される二つの斬撃を受けきることは至難の業だろう。
こうして僕は、着実に技を磨いていった。
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一週間も経てば、次の技に移ってもよいとされた。
しかしそれは、簡単に習得できるものではなかった。
「”肆式”
それは名の通りカウンター技。敵の攻撃を見切ることが必要となる。
彼は僕にその技を見せるといい、優しく語り掛ける。
「じゃあ打ち込んで来てね~。」
僕は覚えたてのスラッシュを、先生に向けて放つ。
それなりに全力でいったつもりだ。
僕の一撃を先生が剣で受ける。
剣同士が触れた瞬間、先生は身を高速で一回転、翻す。
瞬間、僕の首筋には剣が突き立てられていた。
彼の足元には砂煙が舞う。
それは、体の回転が途方もない程速いものだと証明していた。
「じゃあ、これ覚えようか。」
彼はまた、軽々言い放つ。
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一週間後。
どうやら僕は、この技に適性が無いらしい。
どれだけやっても何も掴めない。
カウンター技だからこそ、修練には敵が必要になる。
ここでの敵とは。
そう、サイフォス先生だ。
僕は丸一週間、彼の攻撃を受け続けている。
幸いこの世界は傷の治療が容易い。そのため生傷は残っていない。
しかし痛いものは痛い。
危機感を上げるため訓練には真剣を使うらしい。
そのため毎度、腕や腹、肩口をバックリと斬られる。
それもこれも、僕が習得出来ないからだ。
これは、基礎訓練なんかより数倍辛い。
先生の技は、僕のなんかより遥かに威力が高い。
手加減をしてくれているそうだが、明らかに人外の域だ。
昼まで僕は滅多切りにされて、それから救護院で治療をする。
最初の頃ウィスは、僕が痛めつけられているのを見て体の毛を逆立てていた。
しかし先生と僕の説得により、訓練の一環ということを理解してくれたらしい。
昼が過ぎると、今日も元気に先生と森に出ている。
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そしてまた少し経った頃、先生は言う。
僕はまだ、習得には至っていない。
今も地面に横たわって、話を聞いている。
「うーん。これじゃあ、間に合わないな。」
少し残念そうな顔をして、頭を掻く。
非常に申し訳ないが、間に合わないとは一体何のことだろう。
「いやあね。最近、大森林の様子がおかしいんだよ。」
頭を軽く掻きながら続ける。
「だから彼女の修行も兼ねて魔物を間引いていたんだけれど、ちょっと間に合わないくらいになっていてね。」
ウィスと目を合わせて、仲良さげにうんうんと頷く。
いや、何を軽く言っているんだ?
先生は、正直化け物レベルの強さだ。そんな人間が魔物を狩り続けて、それでも間に合わない?緊急事態じゃないか。
「まあ十中八九、
恐ろしいことを言っている。
「ええと、ちなみに。発生時期の見立ては?」
「まあ、五日後とか?民間人の避難のため、今日正式な発表があるらしいよ。」
彼は大きな欠伸をしながら、そう言った。
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