ほぼ説明無しで放り込まれた異世界、「固定魔法」と地道な修行で徐々に成り上がる。

八房十一知

始まりと出会い

第0話 絶体絶命


周りを囲む緑の怪物達の息遣いが、すぐ傍まで近づいてくる。

もうどれくらい走っただろうか。喉の奥には血の味が広がり、体の限界を告げる。


怖い。怖い。殺される。死にたくない。どうしてこうなった。

頭は絶望から来る弱音で一杯だ。


「死ぬ」なんて、実際に追い込まれないと分からないものだ。

僕は今こんなにも、恐怖で包まれている。


装備は小ぶりのナイフと、バックラーのみ。こんな物で一体どうすればいい。


少し浮かれていただけじゃないか。

憧れたファンタジーの世界。見たことも無い雄大な自然。

チュートリアルのようなゴブリンに出会って。


最初は上手くいったんだ。


偶然にも倒すことが出来て。嬉しくて。

欲が出てしまった。


その結果が今だ。


僕は完全なる復讐対象。所謂、仇として囲まれている。


頭に血が上り、手先が痺れる。酷い逆上だが、仕方ない。

ただで殺されてやる訳には行かない。


こうなったのは、僕のせいだ。それは分かっている。

しかしだ。しかし。


あの美しい女神の頼みを断っていれば、縁側で茶を啜り、日光浴をする、平和な未来もあったのかもしれない。


まあそんなことは、僕の望むところではないのだが。






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