冒険者としての生活

第26話 再び森へ

少しして、ウィスは解放された。


揉みくちゃにされて、少しぐったりとしている姿も愛らしい。

よろよろと、僕の肩に戻る。


「うちのエレロがすまんかったなあ。これは礼だ。持ってってくれ。」


デラは、腰に付ける鞘をくれた。

これはいい。一番上等なナイフを持ち歩ける。


森で獲得した、ショートソード等の装備は、全て魔法袋に入れているため目立たない。これで少しは冒険者としての箔が付くだろう。


しかし、沢山良くしてもらったなあ。

彼も職人のイメージとは真逆の、気の良いあんちゃんだった。


小竜狩りが無事に終われば、土産を持っていこう。


そう決めて、僕はバトス大森林へと向かう。

路銀も使い果たした。暫くは、いつもの森生活だ。


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南の関所では、兵士にギルドカードを見せる。


「十等級か。無理はすんなよ!」


見ない顔をした僕でも、すんなりと通してくれる。関所が二個あるおかげだ。

おおよそ、街道側から来た人間とでも思ってくれているのだろう。


さあ問題は、小竜の居場所だ。

依頼書には姿絵のようなものが書いてあった。

それをウィスにも見せて置いたから、何とかはなると思うが。


「ウィス。小竜を探してきてくれる?勿論、退却優先で。危なくなる前に、戻っておいで。」


彼女は風のように、駆け抜けていく。

人里暮らしもたったの一泊二日のことだが、人に当てられてストレスが溜まっていたのだろう。


僕も周囲を警戒しながら、痕跡や姿を探していく。

歩きながら、今の状況を考える。


そう思うと、あっという間のことだった。

少し街に出るだけで、多くの人と知り合うことが出来た。

目まぐるしいことだ。しかし、悪くない。


一日目は、成果無く終わった。

ウィスは少しすると帰ってきて、ウルフの集団について教えてくれた。

勿論、路銀の足しにするため狩りに行き、上々の成果を挙げた。


ただ、それだけだった。辺りは暗くなり、野営の準備をすることにした。

元拠点の滝壺ほどではないが、小さな川を見つけたためだ。


ウィスと対小竜作戦の練習をする。


そして辺境領までの旅路と同様に、木の上で眠ることにする。

現代にいた頃では考えられないが、こちらに来てから体が頑丈になっていると思う。

悪い寝床でもちゃんと寝ることが出来るからだ。


そうして、小竜討伐の一日目が過ぎた。


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二日目、朝。

食料は魔法袋の中に潤沢にある。


森歩きで蓄えた、自然の恵みだ。

これも売れるのかなんて考えたが、雀の涙程にしかならないだろう。


せっかく人里に来たのに、また森暮らしだ。

人が作った料理、食べたいなあ。屋台で何か買ってくればよかった。

結局食べたのは、サンドウィッチだけだ。美味しかったなあ。



大分歩いたんじゃあないだろうか。

ウィスには昨日と変わらず索敵をしてもらっている。

辺境領への道と違って、今回は横に広く捜索している。

そのため、距離は短いが範囲なら中々のものだろう。


彼女と一緒に行動していないため、安全なルートを取るのは難しい。

しかしこれだけ森に親しめば、嫌な雰囲気というのは分かってくる。


それが功を奏してか、強大な魔物に出会うことなく、進めていた。

森の浅い所というのもあったのだろう。


小まめに彼女は戻ってくる。その度に、今では慣れ親しんだ、ゴブリン、ウルフ、トカゲ、オーク達を狩って回った。


本当に小竜を探してるのかと思う程、頻繁にその魔物たちの元へ案内された。


その中で、一つ。大きなハプニングと収穫があった。


今ではもう楽勝となっているゴブリン達と戦闘している時のことだった。

デラのナイフの切れ味は抜群で、バターのように敵が切れていく。


不思議と身のこなしも軽くなっている気がした。


そんな時、目の前に黒の塊が押し寄せた。

最初は何のことか分からなかった。

しかし塊に飲み込まれたゴブリン達は、バタバタと倒れていく。


目を凝らすとその正体が分かった。


蜂だ。蜂の群れだ。数は数十。


僕はウィスを大声で呼び、走った。


流石にあれは無理だ。


一体一体が、小鳥のような大きさをしている。

既知の危険色では無く、不気味なほど黒く染まった体は、恐怖を覚えるのには十分だった。


木と木の間を駆け抜け、旋回し、奴らを撒こうと試みる。

数は減ったように思えるが、それでも離れることは出来ない。


何なんだ。ここらの冒険者は、こんな奴らを相手取っているのか。

僕の手持ちでは、対処出来ない。


ゴブリンの様子を見るに、刺されれば一巻の終わり。

解毒手段など僕は有していない。


僕との距離は縮まっていく。


ウィスは足が速いから、逃げ切れるだろうけれど。


少し減った十数体の蜂の群れと、触れそうになるその時。

彼女は踵を返して僕に向かう。


やめてくれ。逃げてくれ。


彼女は周りに風を纏い、刃として奴らに飛ばす。

蜂の陣形が崩れる。

その中の数体が、標的を変え彼女に襲い掛かる。


僕は必死だった。

自分の後ろに構える蜂に目もくれず、離れた数体に意識を集中する。


ぶっつけ本番だが、やるしかない。



固定カンイシハイ



ウィスに向かう蜂達は、時間が止まったように、その場に静止した。


しかし後ろに控える、僕を標的としたままの奴らには関係ない。

僕は鋭い痛みを感じた。

術式の固定にも負けないくらい、強い痛みだった。


意識が飛びそうになる。

だが、まだだ。このまま倒れれば、ウィスに危害が加わる。

今なら出来る。


蜂達は、僕の体に針を刺し、毒を送り込もうとしている。


その針を「固定」


何本でも、何本でも、「固定」する。


その隙に、魔法袋から水筒を取り出し、飲み干す。

これで駄目なら、もう駄目だ。


ウィスに向かう蜂はもういない。

残りの数体も、劣勢と感じて離散したようだ。


緊張の糸が切れる。体が痺れる。

石のように、硬く、動かなくなっていく。


僕はついに、意識を飛ばした。


























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