第15話 剣を抜き、祈る。
トカゲも、何となく皮を剥いでみる。
獣と違い、張り付き方が強く、上手く剥ぎ取ることが出来ない。
肉は美味しかった。鳥に近いような淡白な味わいで、臭みも少なかった。
しかしまあ、塩が欲しいな。どうしても味気なく感じてしまう。
嬉しそうにトカゲ肉にがっつくウィスを見ながらも、そう思う。
それからもトカゲは食卓のメインとなっていった。
ウィスにも難なく戦わせることが出来て、味もいいからだ。
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それからの一週間ほどは、ゴブリン、狼、トカゲを見つけ次第狩っていくようになった。
その甲斐あってか、よほど大きな集団でない限りは、苦戦することはなかった。
その中で、オークを発見したりもした。しかし目的以外の獲物を狩ることは、
しっかりトラウマになっているため辞めて置いた。ゴブリンの集団の件だ。
だから今日は、オークを目的とする。
見た限り、かなりの強さを持っていそうだ。
2メートル程の体躯に、よく発達した筋肉。それと対照的に腹は出ているが、口元の大きな牙が獰猛さを感じさせる。
トカゲのように、単独行動をせず、少なくとも三人小隊で動いている。
これは骨が折れそうだ。だから慢心せずに行く。
キャンプとなっている滝壺から半日ほど歩く。
いい場所を見つけたため、そこに「準備」を行う。
さらに歩く。
ビンゴだ。早速オーク小隊を見つけた。しかも数は三体。最小だ。
二体の手には、石斧のようなものが握られている。しかし中心の隊長のようなものは、錆付いた鉄斧を装備しているようだ。
よく見ると、周りがほぼ裸のような腰布のような服を着ているのに対して、
上等な皮の鎧と、鉄兜を付けている。
ウィスに先行してもらい、気を引かせる。
オークは突如現れた小さな白い獣を見ると、好奇の視線を向ける。
彼女は尻尾を振り、悠然と周囲を歩く。
時間稼ぎだ。
自分たちの害となる程のものじゃない。狩ろうとしてくる訳じゃない。
こいつは何物だ?と。
その間に小石砲を準備する。「固定」をなるべく意識して使ってきたため、今では数十個の小石を固定することが出来る。
しかし急ごしらえでは十個程が限界だ。ウィスに手を出されてしまう前に発射しなくては。
そしてその全てを解除する。石礫は散弾銃のように、オークへ向かって飛んでいく。
数発は外れる。的中したものも、左程大きなダメージとはならない。
しかし弾丸は弾丸。体に走る痛みに怒りを表したオーク達は、発射されたであろう方向に向かって走る。
その視線の先には僕。見つかるがそれはわざとだ。
僕は追いすがる豚を引き付けるように走る。
五分ほどなら全力疾走を維持することが出来る体力は、森暮らしで身に着けていた。
そしてある地点を飛び越え、森の中の広場のように開けた場所で向き直る。
オークの一体は先行して付いて来る。少し足が速い個体だな。
まあ上等だ。
視界の先には僕。しかしすぐにそれは塞がれることになる。
先行した一体は足元に落ちていく。そして悲鳴とも取れる鳴き声を上げる。
落とし穴だ。これを作るのには骨が折れた。それなりの穴を掘り、先を尖らせた木の棒を何本か「固定」しておく。上から木の枠組みに枯葉を被せカモフラージュする。
子供のいたずらのようなものだが、殺傷力はあったようだ。
後ろの隊長を含めた二体は穴を覗き込み、怒りの咆哮を飛ばす。
そして穴を迂回するように広場へとたどり着く。
追い詰めたという余裕からか、先までの怒りはどこへやら、にやけた笑いを浮かべる。
しかし誘い込んだのは僕。文字通り、布石を打っておいた。
オークと僕の距離がまだ十分にあることを確認し、「固定」を解除する。
木の陰から無数の石が飛び散る。先程よりもさらに多い、三十発はあろうかという石の弾丸だ。
設置の時間があったため、小石とは呼べないような石も入っている。さらに念入りに力を籠め、慣性を貯めた。甲斐あって、かなりのスピードが出ている。
一匹は当たり所が悪かったようだ。首と腹を打ち抜かれ、その場に倒れる。
もう一匹の隊長は、腕で頭をガードしていた。防具の効果もあったらしく、
致命傷には至らなかった。しかし大きなダメージを受けている。
ここまで下拵えをしたんだ。後は正面切って戦うのみだ。
オークは足を引きづり僕に向き直る。
ウィスが追い付いてくるのが見えた。そのまま豚の背後に向けて風魔法を放つ。
しかし何の反応もしない。
ここまでのダメージを受けているため、背中に傷を受けたとて左程変わらない。
決死の覚悟で僕を殺そうとしているらしい。
殺意を込めた瞳で僕を睨み、血塗れの体を引きずり向かってくる。
その剣幕に後ずさりしそうになる。
でも駄目だ。僕が望んだ戦いだ。僕がここまで痛めつけた。だから、戦う。
大振りに右腕の鉄斧が振り下ろされる。しかし動きに精彩は無い。それでもかなりのスピードだ。もし万全の状態であったら、一瞬で殺されていただろう。
そんなことを思いながら、回り込んで躱す。
返す一太刀で、右腕を切りつける。両断には至らない。なんて丈夫さだ。
オークの右腕には、武器を持つ力も残っていない。
斧をどさりと捨て、左のストレートが飛んでくる。
僕はそれを後ろに飛び、回避する。
そして剣を構え突進する。オークは出した拳を引くことすら出来ない。
皮の鎧ごと、腹を貫く。
少しの静寂の後、彼の体は力なく倒れこむ。
かなりの重さだが、僕はそれを受け止める。
強かったんだろう。彼はこんな卑怯な搦め手を凌ぎ、僕に向き直った。
剣を抜き、祈る。
体に力が滾る。
僕はこの自己満足を、何度も重ね、越えて行かなければならない。
こういう時になると、女神様のことを思い出す。
これで正しいのだろうか。
この迷いを無くさないよう、彼を埋葬することにした。
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