アカヤジオウ(赤矢地黄);Rehmannia glutinosa Liboschitz var. purpurea Makino

 赤矢地黄アカヤジオウはゴマノハグサ科アカヤジオウ属の多年草。佐保姫草さおひめくさという別名もあります。中国の東北、華北、華東、華中、内モンゴルに分布。乾燥した砂礫されき地、傾斜地、路辺の荒れ地などに野生するが、栽培もされています。


 日本には平安時代以前に渡来し、『延喜式えんぎしき』巻三十七典薬寮てんやくりょうに収載されていて、『大和本草やまとほんぞう』にも記述があります。また、『奈良県薬業史』に江戸時代には高市たかいち郡地黄村(現在の奈良県橿原かしはら市地黄町)、宇陀うだ郡、十市とおいち郡で盛んに栽培されていたと記録が残っていますが、現在はほとんど栽培されていません。高さ10~30㎝、葉は倒卵形~長楕円形でしわが多く、下面は紫色を呈し、全株に灰白色の線毛を密生しています。初夏に紫紅色~淡紫紅色で筒状で先端が唇形をした花を数個つけます。がく鐘形かねがたで先は五裂し、花冠は筒部が長く、先端で開出し五裂、裂片は鈍円形で雄しべは4本、筒部の下部につき、うち二本は長く、雌しべは一本で子房上位につきます。蒴果さくかは円形ないし卵円形で先端がとがり、多数の種子をもちます。花冠が淡黄色のものを白矢地黄シロヤジオウといいます。


 根の部分を掘り上げて蒸したものが生薬名「地黄」として薬局方に収載されていますが、市場では「熟地黄」、「乾地黄」、「生地黄」という名前で流通していて、調製方法により区別されます。中国の本草書である「神農本草経しんのうほんぞうきょう」ではニンジン(薬用人参)などと同様に長寿や滋養強壮に有用とされています。漢方医学では,保健強壮薬,尿路疾患用薬,皮膚疾患用薬,婦人薬とみなされる処方に配剤されています.薬理学的にも血糖降下作用などが報告されています。ジオウを配剤する代表的な処方に「八味地黄丸はちみじおうがん」「牛車腎気丸ごしゃじんきがんなどがあります。八味地黄丸,牛車腎気丸などは神経痛や前立腺肥大,糖尿病,五十肩,かすみ目,尿失禁など,加齢に伴って現れやすい疾患に対する改善効果が知られています。


 別名、佐保姫草の佐保姫は春を司る女神の呼称で「佐保」とは奈良県の佐保山のことで、平城京の東側にあります。様々な和歌でも佐保姫は詠まれています。


佐保姫の糸染めかくる青柳をふきなみりそ春のやまかぜ

(平兼盛「兼盛集」)


さほ姫の霞の袖もたれゆへに おぼろにやどる春の月かげ

(藤原家隆「続古今和歌集」)


佐保姫のうちたれ髪の玉柳 たゞ春風のけづるなりけり

大江匡房おおえのまさふさ玉葉ぎょくよう和歌集」)

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