アスナロ(明日檜、翌檜); Thujopsis dolabrata var. dolabrata

 明日檜アスナロはヒノキ科アスナロ属で日本特産の常緑針葉樹の高木。北海道の渡島半島から九州の大隅半島まで広い範囲に分布します。湿気のある肥沃な深山を好んで自生するが、人工的に植栽された例も多く、青森県及び石川県のアスナロが特に知られていて、青森県では県の木に指定しています。


 アスナロという名前には、葉の厚いヒノキ、気高いヒノキという意味があり、漢字表記は「明日檜」、「翌檜」。由来としては、一般的に「明日はヒノキになろう」説が好まれ、人生訓にも使われます。この言葉は枕草子の一節から来ていて、「ヒノキに姿形が似ているが材がヒノキより劣る、明日はヒノキになってやろう」というような意味合いです。地域によってアスヒと呼ばれ、ヒバ、アテ などの変種もあります。


 アスナロの葉はヒノキに似ていて、桧葉ヒバ(正式名はヒノキアスナロ)という変種もあり、一片の長さ5〜7㎜でヒノキより大きくて分厚く、十字対生で葉の先端が尖っていない鱗片状の葉としては最大。葉の表面は濃緑色で光沢があり、裏側に大きな白い気孔帯があるのが特徴的。たくさんの枝が分岐しながら水平に広がり、樹形全体としてはピラミッド型になります。幹は真っすぐに伸び、その直径は最大で1mほどになる。樹皮はヒノキに似た赤茶色か灰褐色で、樹齢を重ねると黒褐色になります。ヒノキよりなめらかで、樹皮は縦に裂けて剥離します。地衣類などが着生して白い斑が入っていることが多く、樹皮は屋根葺きに使われます。雌雄同株で、あまり目立たないが四~五月に花が咲きます。雄花は細長い楕円形、雌花は厚い鱗片に覆われたマツボックリ状。自生地において花粉の交配は厳冬の中で行われるといいます。球果は直径1㎝ほどの楕円形であり、ほぼ真ん丸になるヒノキとは異なる。球果にはツノがあり、十~十一月頃に熟します。樹冠は円錐形。成長が遅く、雪の影響などで根元が曲がっていることが多く、枝が匍匐して地面に接するとそこから根を出し、新しい株が成長します。枯死しても、心材が腐らずに残っていることがよくあります。


 庭木として植栽される例は少なく、材木としての利用が多いです。江戸時代にはヒノキ、サワラ、クロベ、コウヤマキと共に木曽五木として幕府によって厳重に保護されました。一般にヒバ材という場合、本種及びその変種であるヒノキアスナロを示します。材は良質で湿気に強く、白アリに対する耐久性もあることから、土台を始めとした建築用材、風呂桶、床柱や長押などの内装、仏像、家具、津軽塗りで知られる漆器などに使われます。ヒノキと同じ香りがあり、その分布が少ない東北地方ではヒノキと同じように扱われることもあります。


 各務支考かがみしこう 著の芭蕉追善の句文集『おい日記』には次のような俳文と句が残されています。


あすはひのきとかや、谷の老木のいへること有。きのふは夢と過ぎて、あすはいまだ来たらず。ただ生前一樽せいぜんいっそんの楽しみの外に、あすはあすはといひくらして、つひに賢者のそしりをうけぬ。


さびしさや花のあたりのあすならふ 芭蕉


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