アサ(麻);Cannabis sativa

 アサは中央アジア原産とされるアサ科アサ属の一年生草本。古くは紀元前のエジプトにおいて麻が栽培され、繊維用植物として麻布がミイラの製造の際にも使用されたり、紙の起源である麻紙の原料となりました。このようにアサは繊維を採るために、古代から自由に栽培され、日本への渡来も古く、古代より重要な繊維原植物として栽培され生活に利用されてきましたが、現在、日本では、大麻取締法の対象植物に指定され、栽培や所持に許可が必要で、違反すると厳しく罰せられます。


アサの学名のうち Cannabis という属名について は,ギリシャ語の「kanna」を語源としていて、くだを意味します。種名のsativaは「有用なもの」あるいは「栽培されるもの」という意味があります。和名については青麻の意味があり,緑色を帯びた皮から採る繊維に由来したアオソが転訛してアサになったといわれています。大麻草たいまそうとも呼ばれています。


 高さ1~3m。茎は四角柱で細毛がつきます。葉は掌状に三~九裂し、各片は細長く、先がとがり、縁には鋸歯きょしがあります。雌雄異株で、淡黄緑色の雄花と緑色の雌花が短い穂状について夏から秋にかけて咲きます。種子は、七味唐辛子や食用の麻の実油などに利用される他、生薬名を麻子仁マシニンといい、緩下作用を目的とした瀉下薬として漢方に処方されます。また、皮をはいだ残りの茎は「おがら」と呼ばれ、懐炉灰の原料、わら屋根の下ぶきなどのほか、お盆の「迎え火、送り火」を焚くのに用いられます。


このように有用なアサですが、葉や花序に向精神性の幻覚を起こさせる成分THC ( tetrahydrocannabinol )が含まれ、THCの乱用は、幻覚、妄想などの精神錯乱を起こし、知的機能低下や、生殖器官の異常などの障害も発生させるため、種子、成熟した茎を除き、量の大小、目的の如何を問わず、大麻取締法による規制の対象となっています。


 尚、「麻の葉模様」は、大麻の葉に似ていることからその名が付いた日本の伝統文様。丈夫で成長が早いことから模様に「子どもの健やかな成長」の意味を込め、産着の定番のデザインとなっていますが、元々は鎌倉時代に仏教美術のデザインとして生み出され、仏像の着衣や仏教絵画に用いられたが、江戸時代に着物の柄として定着。人気の歌舞伎役者が麻の葉模様の衣装を着たことで流行し、着物だけでなく本の表紙や建具などのデザインにも応用されたと云われています。


 『万葉集』にも麻の収穫の情景を詠んだものや麻糸、麻布にまつわる歌が多く収録されていて、その中の一首をご紹介します。


 麻衣着ればなつかし紀伊の国の妹背の山に麻蒔く吾妹わぎも

(巻七・一一九五)藤原房前ふじわらのふささき

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