アカンサス(葉薊);Acanthus

 アカンサス(葉薊ハアザミ)はキツネノマゴ科ハアザミ属の宿根草。地中海沿岸に自生し、草丈1.5m以上にもなる大型の植物です。葉の形がアザミに似ているため葉薊ハアザミという和名で呼ばれることもあります。「Acanthus」はギリシャ語のakantha(棘の意)に由来し、葉縁に棘があることによります。


 種類が多く、地中海沿岸では約20種が分布しています。日本でアカンサスと呼ばれている品種は、ポルトガルからイタリアに分布するアカンサス・モリス(Acanthus mollis)で、明治時代に渡来しました。


 アカンサスはギリシャの国花としても有名で、古代ギリシャ時代から神聖な植物として愛され、特にその美しい葉は、ギリシャ建築やルネッサンス建築の装飾のモチーフとされてきました。ギリシャ建築では柱頭の先端にアカンサスの葉のモチーフがデザインされています。そのほかにも、ルネサンス、バロック、ロココ様式など、さまざまに形を変えながら多くの装飾に利用されてきました。


 名の由来ともなっている葉は楕円形で長さ50㎝以上羽状深裂で、歯牙があって光沢がある大きい濃緑色葉を根生します。葉や種にタンニンを含み、下痢止め、止血などの薬効もあります。(根には毒があるので要注意)花期は七月から九月で、初夏の頃に高さ1mをこす長い花茎を出し、白地に淡紫脈のある大きい唇形花を長い穂状に咲かせます。とても生命力が強く、存在感のある魅力的な植物です。


 アカンサスの名前の由来には、美しい娘アカンサスを太陽の神アポロンが見初め、求婚しましたが拒否され、それでも近づいてくるアポロンを爪で引っかいたので、アポロンは彼女を爪のようなトゲのあるアカンサスに変えてしまったというギリシャ神話の伝説が残されています。


 また、紀元前五世紀頃、古代ギリシャのコリントスという都市で亡くなった少女が病死し埋葬された際、その乳母が故人の遺品をかごに入れ、上にタイルをかぶせて墓のそばに供えました。春になってその遺品を納めたバスケットの下から、このアカンサスの葉が華麗な曲線を描いて絡みついているのをアテネの彫刻家Kallimachos(カリマコス)が見かけ、その美しさに感動し、ギリシャのコリント式建築の円柱にデザインし、石に彫って永遠の芸術にしたとされる伝説も残されています。


 春が来るたびに芽を吹く姿からキリストの復活を象徴する「聖なる植物」ともされています。


 アカンサスはアガパンサスと表記上で混同されたりもしていますが、昭和から平成にかけてご活躍の歌人の短歌で詠れています。


 アカンサスおこせばすがる蝶の群れ一夜の嵐青々と降る 近藤芳美

 

 しづくしてゐしアカンサス鎮まれば理詰めに言へることもはかなし 大西民子


 文字深く刻めし君の歌碑の前一もと立てりアカンサスの花 扇畑忠雄


                           

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