アギ(阿魏);Ferula assa-foetida L

 阿魏アギの原植物であるアサフェテイダ(F. assa-foetida)は中央アジア、イラン、アフガニスタンなどに分布するセリ科オオウイキョウ属の多年草。葉が根元から束生し、五年目頃に花茎が出て高さ2 mに達します。葉は巨大で肉厚、基部に近い葉は羽状複葉で長さ50 cmに達します。花は花茎の先の複散形花序に黄色くて小さい五弁花を密集させてつけます。 果実は褐色で楕円形の分果であり、翼があります。 花期に茎を斜めに傷つけると乳液が出るので、 それを固めて樹脂状にすると、 ニンニクのような強い匂いがしますが、 加熱するとタマネギのような香りとなり、 香辛料や生薬として使われます。


 阿魏は『新修本草しんしゅうほんぞう』に「味辛、平。無毒。諸小虫を殺し、臭気を去り、癥積ちょうせきを破り、悪気を下し、邪気、蠱毒こどくを除く。西蕃せいばん及び崑崙こんろんに生じる」と収載されています。唐本とうほんにも「苗、葉、根、茎は白芷ビャクシに酷似する。根をいた汁を一日かけて煎じて餅にしたものを上とし、根をって穿うがして暴乾したものを次品とする。体性は極めて臭いが、能く臭を止める。奇物である」とあります。


 その名称について、李時珍りじちんは「夷人いじんは自らを称して阿という。この物は極めて臭く、阿のおそるものだという意味である。波斯国ペルシアでは阿虞アゴと呼び、天竺国てんじくこくでは形虞ケイグと呼ぶ。涅槃經ねはんぎょうにはこれを央匱オウヒツといってある。蒙古人もうこじんはこれを哈昔泥ハーシーニという。げんの時には食用に調味料とし、その根を穏展オンテンと名づけ、羊肉を淹けると甚だ香美で、その功は樹脂由来の阿魏と同じだといっている」と述べています。


 段成式だんせいしきの『酉陽雑俎ようゆうざっそ』には「樹は長さ八、九尺で、皮の色は青黄、三月に鼠耳に似た形の葉を生じ、花、実はない。その枝を断ると飴のような汁がで、久しくすると堅く凝まり、これを阿魏と名づける。拂林国ふつりんこく(東ローマ説が有力)の僧彎そうわんが説くところと同じである。摩伽詑国まがだこく(古代インドの十六大国の一つ)の僧提婆そうだいばは、その汁を取って米、豆の屑と和して阿魏を合成するのだ」と云っています。


 一方、蘇頌そしょう蘇敬そけいの説を引き、ほかに「今広州こうしゅうに出るものは、木の膏液が滴醸てきじょうして結成したものだとし、二説あって蘇敬の説と同じではありません。段成式の酉陽雑俎にあるものは今広州から報告されたものと近い」と書いていることから、阿魏の製造法に二説あることがわかります。また李時珍りじちんも「阿魏には、草、木の二種があって、草のものは西域に産し、さらすもよく煎じるもよい。蘇敬に所説のものがそれである。木のものは南番なんばんに産し、その脂汁を取る。李珣りしゅん蘇頌そしょう陳承ちんしょうの所説のものがそれである」と云っています。阿魏はインド北部〜ペルシャに産する外国産生薬であったことから、その原植物を実際に見てなかったため諸説が出てきたのであろうと考えられます。


 阿魏は中国、南宋の詩人、范成大はんせいだいの詩「四時田園雜興しいじでんえんざっきょう」六十首の中の一首で詠われています。


新綠園林曉氣涼,

晨炊蚤出看移秧。

百花飄盡桑麻小,

夾路風來阿魏香。


新綠の園林 曉氣げうき涼しく,

晨炊しんすゐさうでて あうを移すを看る。

百花 ひるがへくして 桑麻さうま小さく,

みちはさみ 風たりて 阿魏あぎ香る。


(南宋・范成大「四時田園雜興」より抜粋)





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