アニス(茴芹);Pimpinella anisum

 アニス(Anis)とは、地中海東部沿岸原産のセリ科ミツバグサ属の一年草で古くからハーブの一種として親しまれています。 ターメリック(Turmeric)、クローブ(Clove)、コリアンダー(Coriander)などの香辛料の一つで、カレーなどの香付けに使われます。フェンネル(茴香)に似た芳香と甘味に特徴があり、別名で西洋茴香セイヨウウイキョウとも呼ばれます。また、リキュールの素材としても知られています。


 学名をPimpinella anisumといい、Pimpinellaはラテン語で「2つの羽状」を意味するdipinellaに由来しています。葉の上部と下部とで形が違い、上部が切れ込んで羽のように3つに分かれているため、このような名前がついたといわれています。また、和名を茴芹と書きます。


 アニスは夏になると小さな白い花を咲かせ、草丈は60cm程にまで成長し、葉は鮮やかな緑色をしています。半耐寒性の特徴を持ち、肥沃な砂質でPH6.0~7.5の土壌を好みます。アニスはアブラムシやアオムシを寄せ付けず、またハチを誘って受粉を助けるなど他の植物を一緒に植える利用もできます。アニスの香りはスパイシーで、また味覚としては少し刺激のある甘さを持っています。香り成分は熱に強く、焼き菓子やスープの香りづけにも使われます。


 アニスは古代エジプトでミイラをつくる際、主要な防腐剤として利用されていました。また、薬草やスパイスとしても扱われていたといわれています。イギリスでは、修道院でしかアニスが栽培されておらず、高価なスパイスとして輸入されていました。1305年にエドワードⅠ世がロンドン橋を通過するアニスに特別税を掛け、その税金がロンドン橋の修復費用に充てられました。

 

 古代ギリシアの時代には主に薬草として扱われ、母乳の分泌を促進する、あるいは分泌期間を延ばすものとして信じられてきました。また、魔よけとしての効能を持つとも信じられていたといわれています。古代ローマ人は胃もたれを解消するため、アニスケーキを宴会のデザートとして食したといわれています。この風習はウエディングケーキの由来となっています。


 日本には明治初期に伝来し、現在でも少量栽培されています。


 アニスの利用部位は主に果実です。この果実は種のように見えることから「アニスシード」と呼ばれ、香辛料として様々な料理の香り付けや臭い消しに使用されます。

また、アニスは葉や茎、花、根も食用とされ、葉、茎、花はサラダに、根はスープやシチューなどの煮込み料理に利用されます。アニスは現在ではマウスウォッシュの成分としても知られているほか、種子から抽出されるアニス油を医薬品や化粧品に利用しています。


 アニスのスパイシーな香りは、芳香成分であるアネトールによるものです。また、その他にアニスケトン、リモネン、アニスアルコールなどを含んでいます。また、アニスシードにはサポニンが含まれており、風邪や気管支炎などの時に痰を除いたり咳止めのために利用されます。また女性ホルモンであるエストロゲンと似た作用を持つため、更年期障害の予防や改善に効果的だといわれています。女性ホルモンに影響を及ぼすことから、妊娠中・授乳中の女性の使用は注意が必要です。



 アニスには、気管支炎を予防・改善する効果があります。アニスの種であるアニスシードには、痰を切る作用にすぐれたサポニンが含まれています。サポニンとは、植物の根、葉、茎などに広く含まれている配糖体の一種で、苦味やエグみなどのもととなる成分のことです。サポニンを適量摂取することにより、肺に侵入してきたごみや異物を排除する気管の分泌液が促進され、痰が出やすくなることがわかっています。そのため、咳を鎮めたり、痰を除く薬として利用されています。このことからもアニスには、気管支炎を予防・改善する効果があるといえます。


 アニスの特徴を上手く詠み込んだ歌人、中家菜津子さんの短歌を一首、ご紹介致します。


三片が欠けたアニスの欠けた箇所 指で触れてる見えないけれど 中家菜津子


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