アセビ(馬酔木);Pieris japonica subsp. japonica

 馬酔木アセビは本州、四国、九州などの乾いた山地に自生しているツジ科アセビ属の常緑性の低木。林地や砂礫地、山の尾根などに群生しています。アセビには、日本のアセビ(Pieris japonica)のほか、ヒマラヤ地域から中国雲南省などに分布するヒマラヤアセビ(P. formosa)などが庭木や鉢物として栽培され、園芸品種も数多くあります。


漢字で「馬酔木あせび」と書くのは葉や茎にアセボトキシンという有毒成分をもち、馬が食べると神経が麻痺し酔ったような状態になることから由来します。属名のPierisはギリシア神話に登場する九人の姉妹、ピーエリスに由来します。別名、アシビ。


 樹高は低木のみならず、山地に自生している樹齢を経たものは3~6mもの高さ達することもあります。葉は濃い緑色で両面とも毛はなく光沢があり、よく見ると葉先の縁には浅いギザギザがあります。また、新芽はやわらかな光沢のある紅色で、紅葉しているように美しいです。早春に咲く壺型で房状のたくさんの小花は満開時期は花穂が樹を覆うように咲き誇ります。花の後にできるアセビの果実は直径5㎜ほど。ぶら下がっているように見えるが、九~十月頃、褐色に熟すと上向きに五つに裂け、風に揺れると中から種子がこぼれ落ちます。


 名前の由来の通り、アセビの葉、花、枝に呼吸中枢神経を麻痺させる毒性があり、アセビの葉を誤食すると嘔吐や痙攣といった症状が起き、花で作った蜂蜜で中毒を起こした例もあります。また、アセビの落ち葉には他の植物の成長を抑制する物質が含まれており、アセビの周辺では他の植物が育ちにくいため群生しやすく、山間部などアセビが群生している地域があります。また、奈良の春日大社、奈良公園、箱根、天城山などはアセビの名所として知られています。庭木や盆栽としても普及し、日本庭園において灯篭や庭石の傍に植えらている他、洋風の庭にも違和感なく植栽されています。


 万葉集の頃から親しまれ、詠まれてきたアセビですが、奈良市神功4丁目の万葉の小径(11)には馬酔木の歌碑が残されています。


池水に影さへ見えて咲きにほう 馬酔木あしびの花をそでこき入れな

(巻二〇・四五一二)大伴家持


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る