アスパラガス(竜髭菜);Asparagus officinalis

 竜髭菜アスパラガスは欧州から西アジア地域原産で、キジカクシ科クサスギカズラ属の常緑多年草の野菜。世界の温帯各地で栽培されています。Asparagusという名称の語源は、ギリシャ語の“非常に分枝する”という意味で、この属の植物の茎葉がよく分布することを言い表しています。また、officinalisは、“薬用になる”というラテン語からきたもので、この植物が栄養に富み、古くはローマ時代頃から薬用として使われていたことが推察されます。和名は阿蘭陀雉隠オランダキジカクシといい、成長すると細かく切れた葉に見える枝がキジが隠れることができるほど生い茂ることに由来します。別名で阿蘭陀独活オランダウド松葉独活マツバウドともいいます。漢名を石刁柏セキチョウハクといいます。


 春から夏にかけて、うろこ状の頭部をもった筆の穂先形の太い芽を出します。食用にするのはこの新芽でアスパラガスの旬は四~七月です。茎は多肉質で高さ1~3m、直立した主茎から多くの分枝を出し、各分枝の先は1~2㎝の松葉状の小枝となります。この葉のように見える小枝は植物学的には偽葉と呼ばれます。偽葉は茎の各節部に、三角形の鱗片りんぺん 状に退化していて、茎が成長すると自然に脱落します。雌雄異株で、夏に鱗片葉の葉腋ようえき に一~二個の鐘形又は筒型の黄白色の花を咲かせます。花弁は六枚、筒状で全開しません。夏から秋にかけて雌株に直径7~8㎜の緋紅ひこう色の球形の果実をつけ、秋に地上部は枯れます。


 日本へは十八世紀にオランダから渡来しましたが、当時は観賞用として庭園に植えられました。明治初期にアメリカやフランスから再導入され、食用として栽培されるようになり、一九二三(大正十二)年頃から北海道で、缶詰用に軟白したホワイトアスパラガスの栽培が盛んになりました。ホワイトアスパラガスは若芽が地上に出ないように地表から20㎝程度に土寄せをして、白く軟らかな地中の若芽を収穫します。土寄せをせず、地上に伸ばした緑の若芽を収穫するグリーンアスパラガスは一九五五(昭和三十)年頃から市場に出回るようになりました。


 ドイツ語圏ではアスパラガスをSpargelシュパーゲルと呼び、日本での筍のように、春から初夏にかけての味覚として珍重されています。ドイツ国内産の収穫時期は、始まりはその年の天候によって変動し、おおむね四月頃であるのに対して、終わりは毎年一律に六月二十四日(聖ヨハネの日)までとなっています。外国産についてはこのルールに制約されないため、国内産シーズンの前後にも入手できます。


 薬効としては根や茎に利尿作用があります。フランスの薬草療法家モーリス・メッセゲは、「この植物の主要な効能は利尿作用である」と述べ、尿道炎を起こしている人を除く腎臓機能の低下、膀胱・肝臓・心臓の病気、痛風にかかっている人に対して、特におすすめする旨を自身の著書に記しています。このときの用い方は、1ℓの湯に、根茎を半握りからひと握り分ほど入れて、しばらくの間、煮出してから一日にティーカップ二杯飲むとしています。 ヨーロッパでは、アスパラギンやマンナン、コリン、アルギニンが含まれるとされ、肝臓、心臓の疾患に薬用として用いられています。


 中国では、塊根にアスパラギンやステロイド系サポニン、クマリン、カロテン、精油などを含んでいるとされ、サポニンは一般に去痰作用、溶血作用が知られ、去痰薬や強心薬などに使われています。 二〜三月頃に塊根を掘り上げて水洗いしてそのまま日干しにするか、熱湯に通してから日干ししたものを、石刁柏セキチョウハクと呼んで薬用にしています。咳がある風邪のときや、小児の回虫などの寄生虫による栄養不足に、石刁柏を一日量3〜9g程煎じて服用します。


 晩春が季語のアスパラガスは俳句として多く詠まれています。


アスパラの葉にも花にも今朝の雨 飴山 實

籐籠にアスパラガスを摘みて来し 長谷川かな女





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