アネモネ(牡丹一華);Anemone coronaria

 アネモネはキンポウゲ科イチリンソウ属に属する多年草。牡丹一華ぼたんいちげという和名もあります。アネモネの名はギリシア語で風を意味するアネモス Άνεμος (Anemos) に由来します。ヨーロッパ南部から地中海東部沿岸地域の原生地から各地への伝播には、十字軍や巡礼者が関わっていて、アネモネ属は温帯から亜寒帯にかけて約100種以上分布しています。日本には明治の初期に渡来して、比較的寒さに強く風通しの良いところでよく育ちます。


 アネモネは秋植えですぐ発芽し、早春に15~20㎝の花茎を出し、径6~7㎝の花をつけ、三月〜五月まで咲き続けます。葉はパセリに似ていて、花は白、赤、青、紫、桃色などカラフルな色彩の花びらと、雄蕊の円模様が特徴的な花で、一重咲きや半八重咲き、八重咲きなどが楽しめます。植物全体にプロトアネモニンという成分の毒があり、皮膚に触れると刺激を与えるだけでなく水疱ができることもあります。


 古くから人との関わりが深く、神話や伝説にも多く登場しているアネモネ。ギリシア神話では、アネモネは、美の女神アフロディテが愛したアドニスが、不慮の事故で死ぬときに流す血から誕生します。イギリスやドイツの俗信では、十字軍の史実が絡んで、キリストの血と置き換わります。つまり、第2回十字軍遠征の頃、イタリアのピサ大聖堂のウンベルト僧正が運ばせた聖地からの土の中にアネモネの球根が混じっていて、その土を使った十字軍殉教者の墓地から見慣れない血のような赤い花が咲いたとして、これを殉教者の血のよみがえりと信じ、アネモネは「奇跡の花」としてヨーロッパに広がっていったと伝えられています。


 モダンな花として親しまれるアネモネは春の季語で、俳句、短歌でも多く詠まれています。


アネモネはしほれ鞄は打重ね  高濱虚子

アネモネや蝶は影のみ落しゆき 八木三日女

アネモネやきらきらきらと窓に海 草間時彦


アネモネは春さく花といひしかど 冬の光に咲くもかなしも 斎藤茂吉

アネモネの花の花葛くれなゐに ほほけて春はすぎにけるらし 鹿児島寿蔵


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