アマ(亜麻);Linum usitatissimum

 亜麻アマはアマ科アマ属の一年草。中央アジア・アラビア原産といわれていますが、現在の主産地は、比較的寒い地方が多く、主にフランス北部・ベルギー・ロシア・東欧諸国及び中国地方です。ヨーロッパでは紀元前から栽培されていて、通常、植物体からスライバー(Sliver;繊維の束)までをフラックス(Flax)と呼び、糸及び製品はリネン(Linen)と呼ばれています。また、古代エジプトでは、リネンは ”Woven Moonlight(月光で織られた生地)”と呼ばれ、広く神事にも使用されていました。


 茎はマッチの軸位で細く、1m程の草丈に育ち梢部は分枝します。葉は小さく、線形で互生し、初夏に白または紫色の可愛らしい五弁花を咲かせ、やがてボール状の実をつけます。実の中に長楕円形で平たい黄褐色の種子があり、種子から亜麻仁油あまにゆを絞り、茎の表皮と木質部の間の繊維の束から繊維を搾ります。


 考古学者によれば、リネンは紀元前八千年頃より世界文明発祥の地チグリス・ユーフラテス川に生えていた、人類最古の繊維と言われてます。 また二〇〇九年九月十三日付の日経新聞等に米国の科学誌「サイエンス」へ、グルジア国立博物館とハーバード大学の国際チームがグルジアの洞窟より黒や青緑に染まった約三万年前の亜麻先染糸が発見された記事が掲載されています。一七五三年にカール・フォン・リンネによって出版された『植物の種』("Species Plantarum")にも記載されました。


 古代ギリシャ人や、ローマ人の間では、上質で純白なリネン繊維が、重宝され、聖書の中にも記されている繊維として、十八世紀頃はとくに多くの生産高を示し、世界文明の発祥の地、小アジア・エジプト地方で使われた人類最古の衣料としてヨーロッパに長い歴史を築きあげました。現在もリネン繊維は光沢と通気性がある衣料としてその伝統を誇り続け、夏用の衣服、肌着、シーツなどに用いられています。


  日本への渡来は元祿(一六八八〜一七〇四)時代で、亜麻仁油あまにゆ(リンシードオイル)を搾るために栽培されました。繊維用の栽培は明治時代に北海道で開拓使によって成功したのが最初。茎からとれる繊維は、麻布地原料の大半を占めます。リネンは、毎年同じ土地で連作すると収穫量が減り、品質も低下するので、六~七年の輪作を行います。四月頃に種子をまき、七~八月に抜きとって収穫します。


 また、種子は強壮,緩下作用があり、便秘、病後の虚弱などのほか、湿疹、脱毛、めまいなどに用います。かつてはハンセン病や肺結核の治療にも用いられました。また,皮膚のかゆみに潰して外用します。種子を圧搾して得た亜麻仁油は,食用のほか軟膏の基剤、石鹸、印刷インク、絵具などの原料となります。


 戦後、闘病生活の中で鮮烈な歌を詠い、三十一歳の若さで亡くなった夭折の歌人中城ふみ子が詠った印象的な一首をご紹介します。


息きれて苦しむこの夜もふるさとに亜麻の花むらさきに充ちてゐるべし

                               

中城ふみ子の生涯については渡辺淳一の『冬の花火』で描かれ、出身地の北海道帯広市には歌碑が残されています。


第一歌碑 帯広市帯廣神社内

冬のしわよせゐる海よ今少し生きておのれの無惨を見むか


第二歌碑 帯広市緑ヶ丘公園内

母を軸に子の駆けめぐる原のひる木の芽は近き林より匂ふ 














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