アマチャ(甘茶);Hydrangea serrata (Thunb.) Ser. var. thunbergii (Siebold) H.Ohba

 甘茶アマチャは本州中部地方の林内に生えるユキノシタ科アジサイ属の落葉低木で、分類学的にはヤマアジサイの一変種。一般には、ヤマアジサイの他の変種も含んで甘味の強い系統がアマチャと称して栽培されています。


 お釈迦様の誕生日を祝う行事、仏生会、灌仏会の花祭りで使うため各地の寺院の庭などに植えられています。 この花祭りはお釈迦様の誕生日とされる四月八日に行われ、「天上天下唯我独尊てんじょうてんがゆいがどくそん」と唱え、お釈迦様の像に甘茶をかけてお祝いします。これは生まれて初めて言葉を話した瞬間に九匹の竜が天から清浄の水を注いだという伝説から由来しています。また、甘茶には「上に立つ者がよい政治を行って平和な世が訪れると、甘い露が降る」という中国の言い伝えや、「甘茶は神様の飲み物で、飲むと不老不死になれる」というインドの伝説などがあります。つまり、お釈迦様に甘茶をかけることでお釈迦様への信仰を表します。


 アジサイの原種のガクアジサイに似ていますが、ヤマアジサイは葉の質が薄く光沢がなく、先端が細く尖ります。高さは約 1m になり、葉・葉柄・茎が赤紫色を帯びるのが特徴。 五~六月頃、枝の先に散房花序をつけます。アジサイと同じように、花弁に見えるのは萼片が変化したもので、淡紫色から淡紅色に変化します。


 甘茶は古くからお茶として親しまれ、砂糖がない時代には甘味料としても非常に重宝され、漢方薬などにも使用されていました。薬用甘味剤として日本薬局方にも収載されています。甘茶の葉でシアン化合物が検出されるとの報告がありますが、普通に入れた甘茶では検出されていません。


 昔から食用とされてきた植物であり、甘茶を飲用しても害は無いと考えられています。しかし、濃過ぎる甘茶を飲むと、中毒を起こして嘔吐する恐れがあります。花祭りの際に濃過ぎる甘茶を飲んだ児童が、集団食中毒を起こした事例が報告されたことがあります。一般にアジサイ属の植物には、葉に青酸配糖体が含まれていて、食すと中毒を起こす可能性が考えられるものの、それとの関連は判っていません。厚生労働省は濃い甘茶を避け、アマチャの乾燥葉2gから3g程度を、1ℓの水で煮出す甘茶の作り方を推奨しています。


 甘茶は春の季語としても親しまれ、多くの俳人たちに詠まれています。


子どもらも頭に浴びる甘茶かな 小林一茶

くろがねの丹田ひかる甘茶仏  野澤節子

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