アカザ(藜):Chenopodium album L. var. centrorubrum Makino

 アカザの原産地はインドから中国のユーラシア大陸で、平安時代に編纂された「和名類聚抄わみょうるいじゅしょう」にその名が載っているので、かなり古い時代に渡来し畑で栽培されていたようです。シーボルトに「東洋のリンネ」と評された江戸時代の本草学者ほんそうがくしゃ小野蘭山おのらんざんが著した『本草綱目啓蒙ほんぞうこうもくけいもう』に「野生なし、春月種を下す、また去年の子(種)地にありて自ら生ず…」と書かれていることから江戸時代には野生はなく、毎年春に播種はしゅ栽培していたようです。


 今日の日本では北海道から沖縄の全国各地の畑や野原、道端や荒れ地などに分布する野生化した帰化植物で、ヒユ科アカザ属の一年草として知られています。茎は高さ150㎝、径3㎝に達するものもあり、縦に緑色の筋があります。葉は卵形で縁に切れ込みがあり若芽は紅色を帯び、名前の由来となっています。若芽の白いのを白藜シロザと呼び本種で、アカザはシロザの変種です。花は夏から秋にかけて茎の先が枝分かれして黄緑色の細かい花を穂状に密につける円錐花序えんすいかじょで、萼片が五裂した両性花。花弁がなく、雄しべは五個、平たい球形の子房の先に二個の花柱があります。

 果実期の果穂は赤みを帯び、果実は宿根萼しゅくこんがくに包まれた胞果ほうかで平らな五角形、胚は湾曲していて、果皮が黒い種子を一個包んでいます。


 花穂が出来る前の若葉は蓚酸しゅうさんを多く含むので、よく灰汁あくぬきをしてからお浸し、和え物などにして食用できます。ミネラルが豊富でビタミンA・B・Cや必須アミノ酸のロイシンが含まれていて栄養価が高いですが、アレルギーを発症する場合があるので、注意が必要です。


 葉にアルカロイドのベタイン(betaine)が含まれていて薬効もあり、乾燥葉を歯痛に用いたり、煎汁をうがい薬にしたり、健胃強壮の生薬や虫刺され薬としても用いられます。


 茎は秋に木質化して堅くなるので、杖として用いられました。貞亨じょうきょう五年(一六八八年)五月中旬頃に岐阜梶川の妙照寺みょうしょうじ己百きはく亭に逗留とうりゅうの折りの芭蕉の句にも詠まれています。


宿りせん藜の杖になる日まで 芭蕉

各務支考かがみしこう 著、芭蕉追善の句文集『おい日記』より)





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