アイギョクシ(愛玉子):Ficus pumila var. awkeotsang

 愛玉子アイギョクシ無花果イチジクの仲間の常緑クワ科イチジク属のつる性植物で、台湾で自生します。無花果と同様に、花は果実のように見える「果嚢かのう」の内側に密生しています。したがって、外からは花を見ることができません。アイギョクシの果嚢は先端がいくらかくびれて尖った長めのレモンの形で、表面は白いまだら模様があり白い短い毛が見えました。緑色の果嚢は熟すと黄緑色から紫色になります。果嚢を切ると内側は種を付けた太い糸のような小さな果実がつまっています。 果嚢を縦にを切って裏返しにして、種のついている内側の果肉ところを乾かしたものが愛玉子です。


 名の由来は、台湾の歴史学者、連雅堂れんがどうにより、一九二〇年に出版された著作「台灣通史‧農業志」に次のような記載があります。


 清朝せいちょう歴で道光どうこう初年(一八二一年)大陸と嘉義かぎを行き来して商売をしていた男がいました。ある時、大埔だいほくを通りかかり、その日は暑くて喉が渇いたので山の渓流の水を飲むと、言いようのない味がして涼しくなり実に美味く、水面が突然凍った様に見えました。こんな暑い天気なのにどうしてこんなに冷たいのかと不思議に思い、水面を見ると木から名前の知らない実が落ちていました。実を拾いあげて揉むと寒天に似たとろみを帯びてきました。男はこの果物によって水が凍ったと考え、実を取って家に持ち帰り、水に入れて揉んだところ、水が凍ったようになったので砂糖を入れて美味しくいただきました。彼には愛玉という名の美しく育った十五歳の娘がいて、この娘が実から作ったゼリーを売ることとなり、娘の名前の愛玉にちなんで愛玉凍オーギョーチーと呼ぶようになり、この木の実が愛玉子と言われるようになりました。


 この植物の種子から寒天に似た食品を作るので、カンテンイタビという和名もあります。台湾では果肉に含まれるペクチンをゼリー化したデザートが夏の風物誌として食されています。古くは楊貴妃にも食された人気スイーツですが、戦前には日本の東京浅草で台湾由来の名物グルメとしてよく知られていたようです。


 また、植物分類学者として知られる牧野博士が東京帝国大学の命を受け、一八九六年に植物調査団として船で基隆港から台湾へ出張した際、発見、採集した植物として資料に記録されています。

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