アカマツ(赤松); Pinus densiflora

 赤松はマツ科マツ属の常緑針葉樹の高さ30mにもなる高木です。岩場や溶岩流上などの極端に乾燥した場所や湿地など、他の樹木が生えないような痩せた場所にも生えます。自然分布の他に植林も行われており、庭園にも植栽されます。


 樹皮が赤みを帯びた褐色であることが和名の由来となっていて、成長すると鱗状に薄く剥がれ亀甲状に縦の割れ目を生じ、幹の上部は木肌が露出します。冬芽の鱗片は赤味を帯びていて、伸びて新枝になります。葉は明緑色の針状葉が二本ずつ束生そくせいする二葉性で長さ7~10㎝、断面は半円形の針状で、先が尖っています。葉が軟らかいことから女性を連想させるため女松という別名で呼ぶ地域もあります。雌雄同株で花期は四〜五月。緑黄褐色を帯びた雄花は新枝の根元に多数つき、紅紫色の雌花は新枝の先端に二~三個つきます。球果は長さ4~5㎝の卵形の毬果きゅうか(松ぼっくり)で果期は翌年の十月頃。毬果につく種鱗はくさび型で、その内側に長い翼がついた種子が二個つきます。毬果は晴れた日に種鱗を開き、種子を散らします。


 日本の松の中でもっとも広い範囲に分布し、天然状態では日本の本州、四国、九州、国外では朝鮮半島、中国東北部などに分布するほか、北海道西南部にも植林され、かなり寒冷な気候にも耐えることができます。


アカマツの葉の抽出物質は一部の植物の発芽を妨げるアレロパシー(他感作用)を示すといわれ、松脂からはテレピン油が作られます。また、アカマツ林にはマツタケが生えることが知られています。建材やパルプ材、陶芸の登り窯にくべる薪やお盆の松明に使われたり、京都の五山送り火でも、大量の赤松の薪が組まれて焚かれます。

庭木としても栽培され、庭木で用いられる伝統的な害虫対策の手法に藁を編んだ菰をマツの樹幹に巻き付ける菰巻こもまきがあります。菰巻と並ぶ冬の名物に樹木の枝が折れないように縄で枝を保持する雪吊ゆきつりがあります。


 秋田県由利本荘市鳥海、矢島地域に伝えられている餅菓子「松皮餅まつかわもち」に使う松皮は、赤松から剥ぎ取られた柔らかい内皮を用い、一晩水につけ込み、重曹か灰汁を入れて六、七時間ほど煮た後、水分をよく絞って金槌かなづち木槌きづちで叩き、これをさらに細かく切ってさらに水分を絞ったものをつきあげた餅に混ぜることで、独特の赤茶色が生じます。「松皮餅」には天明の大飢饉の際の救荒食きゅうこうしょくとして作られたという説や、矢島藩主の生駒氏が改易前の四国で兵糧攻めの際に作り出したという説があります。


 一般に松とは赤松、黒松の両方をいい、昔から、神のしろ、つまり神様が天から降りてこられる木とされ、今でも、お正月に門松として飾られ、古くから日本人の身近にある木です。万葉集でも萩や梅についで多く詠まれています。


 宮城県大衡村の赤松林とこれに隣接する落葉広葉樹林の万葉植物を主体とした森林公園「昭和万葉の森」の万葉歌碑48基のうちの一首をご紹介します。


一つ松 幾代いくよぬる 吹く風の おとの清きは 年深みかも


(巻六・一〇四二)市原王いちはらのおほきみ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る